■ 読書雑感:「記者ラストベルトに住むートランプ王国、冷めぬ熱狂」
(金成隆一かなりりゅういち、朝日新聞出版、2014.6、@1400)
1 本の内容は? ・・・中間層を壊すと国が壊れる
ラストベルト(錆び付いた工業地帯
Rust Belt)とは、石炭・鉄鋼・自動車などのアメリカ製造業が盛んだった地域で、今は、衰退している。
アメリカ大陸の中央あたりで、かつて労働者は、祖父・親・子供と代々、民主党支持だった。
2016年の大統領選挙で、共和党、トランプ支持に変わった。それはなぜなのか。
ワシントン勤務の記者が、2016米国大統領予備選から、トランプ当選まで取材していた。当選後の追跡取材をする中で、「ホテル利用より安い、私が経営するアパートを借りないか」と打診されて住み込み、ニューヨークの国連取材等は助手の協力と、出張とインターネット等でこなして、定点観測的に、住人の生活・意識等を探った。
2016年11月にトランプが当選を決めて、米国民にとっても世界にとっても、「1期4年間」が予測不能になった。投票した人は何を期待して、その後2年間をどう捉えて、次の2020年にトランプは再選するのか。
2 フライ・オーバー・カントリー・・・(頭上を飛び越えられる地域 flyover country)
(1) (口絵p1)当選決定の日に、酒場でトランプ支持者が描いた米国地図。
~「中央を共和党の赤」で、「東・西海岸の都市部等を民主党の青」に塗った。
~「大陸の真ん中が真のアメリカだ。今回は、真ん中の勝利だ。」(p2)「東海岸は政治家・大企業・銀行・マスコミ、西海岸はハリウッド、シリコンバレー。エスタブリッシュメント(既得権益層)だ。」
~「真ん中は鉄を作り、食料を育て、石炭や天然ガスを掘る。両手を汚し、汗を流して、身体が痛むまで働く。もはや中間層ではなくなり、貧困に転落する寸前だ。」
(2)(p7)米国地図。2012年と2016年の州別の大統領選挙結果で、民主党から共和党に変わったのは、ペンシルベニア州、オハイオ州、ミシガン州、ウィスコンシン州、アイオワ州とフロリダ州で、前5州は製造業が衰退した所謂ラストベルトになる。
(p22)上記と重なる記者が取材した町の米国地図。
これらの地域は、【東・西海岸の都市部住民が飛行機で飛び越して立ち寄ることがない、フライ・オーバー・カントリー】と言われる。(p3)「エスタブリッシュメントは自分たちが俺たちより賢いと思っているが、現実を知らない。」
(3)トランプ当選後に抗議集会、行進があったのは、「東・西海岸の都市部」になる。ニューヨーク、ロサンゼルス等。
~本書に出てくるが、基盤になる産業の違い(製造業と金融等)と、自由貿易による正負の影響の違い、その結果の経済格差に起因する意識のずれ、見ているものの違いによる、地域対立のような様相もある。
3 ラストベルトの暮らし・・・ラストベルト(錆び付いた工業地帯 Rust Belt)
(1-1)(p24-)初めて選挙応援をした理由
弟33歳がヘロイン中毒で亡くなった。国境警備の強化と薬物流入を止める公約に共感した。高卒後、製鉄所の溶接工で良い給料だったが、2008年経済危機で閉鎖になり失職。再就職できずヘロイン中毒になった。2017年に地元の自治体が非常事態宣言を出すほど蔓延。「失業、展望が無いことが背景にある」「仕事があれば誰も薬物に手を出さない」2015年トランプ出馬演説「中国、メキシコから仕事を取り戻す」4女の母、39歳。喫茶店で時給1100円。(1ドル110円換算、以下同じ)
(1-2)(p34-)高校の同窓会、30歳代だけど、結構死んでしまった
2015年研究論文「白人中年の死亡率が上がり長寿が反転、薬物中毒とメンタルヘルス自殺に起因」「アパラチア地方(山岳地帯、炭鉱、石炭鉄鋼業、Steel Valley)で、薬物過剰摂取死亡が急増して、都市部を抜いた」
(1-3)(p37-)看護師資格があり働く。時給2200円未満、年収418万円以下。自分の稼ぎで子どもを育てているから、中間層と自認する。401K確定拠出年金の積み立てを始めたが、30年後(69歳)に引退できるか見えない。不安になる。
(1-4)(p40-)「この国の生活レベルは落ちている。ビジネスマンの経験を生かして、国の財政を健全化してくれればいい。無駄な支出は止めて、国に利益になることだけをやってほしい。アメリカは石炭と製鉄と木材で走ってきた。民主党が好きなクリーンエネルギーは悪い例、余計な環境規制を撤廃することがトランプの仕事。」
(1-5)(p42-)ファストフード店は時給770円、最低賃金。看護助手は時給880円、ワーキングプア。
「ゼネラルモーターズの期間工1年半のときだけ、時給2200円、文句なしだった。福利厚生も付いた。当時、初めて人生の悩み、心配事(家賃は払えるか、この先どうなるか)が無くなった。」「今、看護助手の時給1045円、生活できないので、仕事を2つやり、週7日、年360日働く。請求書を払うので精一杯。」「GMに感謝している。あれもこれもほしいのでなく、請求書の心配をしないで暮らしたいだけ。」
⇒ これらをポピュリズムと批判するか!?
(1-6)(p72-)「大卒の会計士で年収396万円だけど、高卒の母親の25年前の収入より少ない。」「2008年リーマンショックで企業経営が傾いて失業者があふれた。採用は再開したが賃金を上げないことが問題。」「物価は上がっている。富裕層は豊かになり、貧困層は政府の福祉で暮らし、中間層が干上がっている。」「母親はイタリア移民だが、政府の支援なしに必死に働いて家を建てた。今の移民は違う。民主党は政府の福祉を期待する人を守る党に変わった。」
(1-7)(p99-)「製鉄所、自動車工場等製造業が閉鎖になり、今、若者が就けるのはファーストフード店等低賃金のサービス業、やや高い賃金だと技能を身に着けた職人仕事(溶接工、配管工、大工)。」
(1-8)(p112-)「アパート入居者は収入不安定な者が多く、家賃滞納、薬物・アルコール依存が珍しくない。」「若者は5割以上が働いていない、補助制度で暮らしている。収入81950円、部屋代38500円、食費他44000円。ギリギリの生活。」
(1-9)(p139-)「中小企業(スモールビジネス)のサンドイッチ店は、大手フランチャイズ店との競争が大変。大量購入の材料調達費は安い。」(p141-)「街は以前製鉄で栄えたが、今は貧困率38%、家計所得中央値269万円。」(p146-)「昔は商売が簡単だった。何かがおかしくなった。労働者は懐に余裕があった。」(p147-)「今のアメリカが進んでいる方向は間違っている。」
(2-1)(p45-)中間層と自認する基準が低すぎる、自分の稼ぎで暮らせるかどうか
前記(1-5)(今、看護助手の時給1045円、生活できないので、仕事を2つやり、週7日、年360日働く。)「貧困層に転落するのを拒絶して、必死に中間層に押しとどめている。」
(3-1)(p54-)アメリカンドリームも、普通に衣食住が老後まで足りる暮らし
「経済的に安定し、家を建てて、車に乗り、結婚して」「自分宛の請求書を期日までに払う。銀行口座に少しずつ貯金する。親の世代より、少し成功する。」
(3-2)(p48-)「高校卒業間近に仕事(両手を動かしてする仕事 Hands-on job)が見つからない、選択肢は軍隊か、大学は授業料を払わないとならない。」(p55-)「技能(溶接工・配管工・大工・調理師・美容師)があれば時給2200円稼げる。」「大学進学。給料の良い仕事が無くなった。年収440万円~550万円。大学卒業しても安心できない。」「保護者の助言・支援がある卒業生は楽観的に見える。住宅費・生活費・交通費(ガソリン代)・保険料・医療費の支援がある」
(3-3)(p104-)1994年頃「30年働き、去る You got 30years in,you can leave.」「18歳で働き始め、30年、48歳で引退できた。十分な貯蓄ができて、健康保険・年金も十分に受け取れた。良い仕事がたくさんあったが、全部無くなってしまった。」中間層でも、早い引退ができた。土地代が安く、住宅ローン返済が短くて済む。裕福で余裕がある社会だった。
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【その3】<読書雑感「記者ラストベルトに住むートランプ王国、冷めぬ熱狂」>
3 ラストベルトの暮らし・・・ラストベルト(錆び付いた工業地帯 Rust Belt)/4 2016年大統領選の結果を見誤ったのは何故か/5 白人が過半数を割る年(年齢別)/6 移民
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