Ⅵ【トランプの「玉」と「石」】

~「玉石混交」の「玉」がトランプにあるなどと発言するのは、リスクが高い。進歩的人士から、非難轟々になりそうだ。「玉」も相当問題がありそうだが、敢えて仕分けをしてみる。

~【2016大統領選挙の逆風、何が真実で、何がフェイクか】新聞・雑誌の支持動向では、クリントン425誌に対して、トランプ12誌。トランプ当選という選挙結果から見れば、大部分がフェイク・ニュースだったことになる。

他方、選挙資金で見ると、クリントンは大口献金をウォール街から得たのに対して、トランプは他の共和党候補と比べても、使った選挙資金が少ないという。

トランプに対するネガティブ広告は、共和党も民主党も巨額を投じたという。それでも当選したのは誰が間違っていたのだろう。選挙民が間違っているのか。考えずにスルーするのは誠実でない。

 

1【玉】

(1)「米中貿易戦争」

 「大赤字の貿易不均衡を変える」ためという理由はもっともだ。日本であんなに貿易赤字があったら大問題だ。以前の米国が特異過ぎる。金の裏付けが無くても一定の価値を認められる、ドル紙幣の世界経済での地位と、サブプライムローンのような人為的な仕掛けによる需要創出が、大赤字を可能にしていた。

 

(2)「中国への先端技術の流出防止・優位確保」

 ①日本の戦後処理、日中友好のために技術供与を行ったが、合弁資本の中国割合を高く規制する制度下で、技術の窃取というような実態もあった。米国は圧倒的な先端技術分野での優位があり寛容だったが、中国人の米国留学等で先端技術へのアクセスが開放的な現状で、中国政府が先端技術の取り込み・優位確保を国策にしたために、技術の窃取・逆転優位が具体的なリスクになった。

②東シナ海、南シナ海で「核心的利益」と主張して、軍事的にも進出する中国が、先端技術で米国を逆転するのは、日本にとっても望ましくない。先端技術は、軍事技術である。

 

(3)「メキシコ・カナダとの北米自由貿易協定見直し」

 ①そもそも今の自由貿易というのは、米国の多国籍企業が世界を市場にするために「米国第一主義」で進めたものだった。アップルのコンピュータやナイキのスポーツシューズのように、米国内で設計・デザインして、製造は国外で行い、部材も製品も関税が掛からない制度を作った。広い国土の大規模経営で作る農産物も、低い関税で輸出する。

 ところが米国内で製造業が成り立たなくなり、自動車製造のように白人中間層の経済的基盤だった産業も没落した。

 ②他方、メキシコの農業は、米国からの安い輸入農産物により破壊された。メキシコからの「不法移民」の流入は、メキシコの産業が成り立たないことが原因である。

 ③各国が国内で一定の産業を維持できるように制度を調整するのは当然だ。

 

(4)「保護主義」

 ①発展途上国と先進国、国土が狭い国と広い国、資源が無い国と有る国、不利な条件があれば国内産業を保護するのは当然だ。弱い国と強い国が同一条件で競争するのがおかしい。ただし自国の利益だけを主張するのでは全体としてうまくいかない。相互に譲歩して、できるだけ開放的な制度にして交易を活発にすることに異論は無いが、行き過ぎてはいけない、程度の問題だ。

 ②米国は「米国第一主義」で経済グローバリズムを拡大して、多国籍企業を中心に利益を得てきた。その過程で国内製造業が衰退・空洞化して、グローバリズムを続けたい多国籍企業・上流層と没落した中間層・低所得層に分裂した。

 ③【「自由貿易の過剰」は「低賃金への競争」になる。】先進国の労働者が、開発途上国の労働者と競争しても、豊かに幸せになれる訳がない。富裕層はどのようにも金を儲けることができる。低賃金で人の労働の上前をはねれば、実入りが増える。

 

(5)四半期決算の廃止検討

2018.8.17に、「上場企業に3か月ごとの財務状況発表を義務付ける四半期決算の廃止検討を、米証券取引委員会(SEC)に指示した」。年2回、6か月ごとの発表にできるか。

門外漢なので、結論がどうなったか不明。

②元々、年2回だったのを、年4回に増やしていた。年4回は、作成する企業の作業負担が大きい。米国の産業重点を重化学工業等からIT・金融に移す中で、投機的な金融、会社の短期的な売り買いで儲ける、ハゲタカ・ファンドのような業態が増えると、投資・投機の会社情報を求めて、年4回になっていた。ここで使われる会社経営の指標は、「リストラで従業員を解雇すると上がり」「研究開発や工場設備投資をすると下がる」ようなもので、会社の長期的な展望での経営にマイナスだった。製造業の衰退の原因とも言える。

③このような投機的投資家のための会計基準、年4回決算を、米国だけでなく、日本にも押し付けると、日本でも長期的な展望での経営にマイナスになる。

 

(6)「ポピュリズム(大衆迎合主義)」
 ①大衆・多数の意見により政治を行うのは当然だ。何がいけないのか。民主主義の基本をないがしろにするのか。反対する人は、どういう政治をしたいのか。エリート・賢人政治か。自分が賢人で、大衆は衆愚か。正しさは、何を根拠にそう考えるのか。エリートは大衆の生活が見えているか。
 ②近年、米国では「富裕層による富裕層のための政治」が続いてきた。見識が優れているという意味でのエリートは絶滅危惧種で、存在するのは経済的政治的特権階層になっている。
 ③【米国の共和党主流派は「小さな政府・民営化・資産再配分の否定」と、「中流・低所得者の保護否定」が基本政策である。】米国にはエスタブリッシュメントと呼ぶ高資産・上流階層が居る。彼らが言う「ポピュリズム(大衆迎合主義)」批判は、「中流・低所得者に構うな」という主張であり、真に受けるべきでない。

 【日本で、進歩的人士が、現下の課題に解決策を示さずに「ポピュリズムを憂うる」姿は、笑止、愚の骨頂である。】

(7)「親ロシアではなく、プラグマティズム」
 ①米国大統領選挙への介入は公正な選挙を妨げる。
他方、ロシアと仲良くすることは良いことだ。ロシアは敵ではなく、競争相手に留めたらどうか。
プーチンは冷戦後も欧州の仲間に入れてもらえないことに相当、落胆したようだ。ロシアを敵視することが、世界の対立の原因になっている。もちろん意見、政策の相違はあるだろうが、全面的な対立を基調にすることは誤りだ。
 ②トランプがロシアを好きなのではない。前記Ⅴ4(5)プラグマティズム(実用主義、実利主義)で、利益を得られるか失うかで、態度を決めている、と見た。
 ③日本の北方四島帰属問題で、ロシアが頑なな態度に転じたのも、東西対立解消後もロシア敵視が続いているためと言える。

【参考、リンク】

(1)何故なんだろう?/国際政治:「ウクライナ南東部、クリミア半島と国後島、択捉島」

https://ameblo.jp/t1997/entry-11802971061.html?frm=theme

(2)映画紹介:「パレスチナ1948 NAKBA(ナクバ)」

1948年、イスラエルが土地を取り上げることによって建国した結果、70万人以上のパレスチナ難民が発生した。これを「ナクバ(大惨事)」と呼ぶ。

https://ameblo.jp/t1997/entry-11384583279.html



(8)「米朝会談」
 ①各国が協力する経済制裁を進めた上で、米朝会談に至ったのは良いことだ。具体策で合意していないと批判する人が居るが、核廃棄は、1回の首脳会談で具体策に合意するには複雑すぎる。方向を決めたので良い。
 ②核廃棄が進まなければ、経済制裁を続ければ良い。以前の合意等は、すぐに経済支援等を与えて、核開発は秘密裏に進んで、結局逃げ得になった。


【参考、リンク】

何故なんだろう?/国際政治:

【その1】「朝鮮半島、核・弾道ミサイル開発、南北会談、米朝合意~2018.7

https://ameblo.jp/t1997/entry-12403152597.html

【その2】「朝鮮半島、核・弾道ミサイル開発、南北会談、米朝合意~2018.7

https://ameblo.jp/t1997/entry-12403156679.html

【その3】「朝鮮半島、核・弾道ミサイル開発、南北会談、米朝合意~2018.7

https://ameblo.jp/t1997/entry-12403158665.html




【その4】<米国大統領の玉石混交~今の世界の課題は「自由貿易の過剰」・解決方法は何か>

Ⅵ【トランプの「玉」と「石」】