〔2〕革新系大統領のときの宥和政策

1 金大中(キム・デジュン)19982003

~非公式を含まない韓国政府による現代グループの、開城工業団地や金剛山観光、交易など、北朝鮮への公式送金は、19983月から20106月までに352380万ドル(約39400億ウォン)になる。 このうち金大中政権が134500万ドル(約15千億ウォン)。

20006月、韓国の金大中政権が現代グループを通じて、45000万ドル(450億円)を北朝鮮へ違法送金。現代商船が調達した2億ドルは、金正日の海外秘密資金口座である中国銀行マカオ支店口座、他に東北アジア銀行のシンガポール口座などへ送金。金大中大統領もメディアインタビューで関与を認めた。

20006月、韓国政府が5億ドル(約530億円)を北朝鮮に供与したことで、初の【南北首脳会談】開催。【南北共同宣言】を発表、金剛山観光や開城工業団地の稼働など、韓国からの経済協力事業を開始。

20026月、北朝鮮による韓国への領海侵犯と攻撃(2延坪海戦)

200210月、米国特使が北朝鮮を訪問。北朝鮮が、枠組み合意のプルトニウムでなく、さらに危険な高濃縮ウランで核開発に移行していることが発覚。

2 盧武鉉(ノ・ムヒョン)20032008

~盧武鉉政権時には、141000万ドル(約16000億ウォン)を北朝鮮に送金。

20064月、金泳三元大統領は「親北左翼勢力がこれ以上この国を振り回せないよう徹底的に警戒し、闘争しなければならない」「金大中・盧武鉉政権を経て、この国(韓国)は親北左翼勢力が大きなことを言う正体不明のおかしな国になった」「金正日政権は銃刀を前面に出して住民を抑圧し、狂信的な洗脳で体制を維持する暴力集団だ」「ほとんど死にかけていた金正日独裁政権を国民の税金で延命させたのは、金大中前大統領が犯した歴史的罪悪だ」と主張。

200710月、韓国の盧武鉉大統領と金正日総書記による二回目の【南北首脳会談】。北朝鮮の「鉄道と高速道路の改修・補修」、「造船複合団地の提供」などを約束。総額15兆ウォン(約15000億円)に上る経済支援事業に合意した。

3 文在寅(ムン・ジェイン)20172018現在

20179月、北朝鮮への「人道支援」として、国連児童基金(ユニセフ)や世界食糧計画(WFP)を仲介して800万ドル(約8009000万円)相当を決定したと発表。


〔3〕6カ国協議、20032007

~「南北会談」は、主に「朝鮮統一」を議題にする。2000年(金大中VS金正日)、2007年(盧武鉉VS金正日)、2018年(文在寅VS金正恩)。過去の南北の合意は、1972年南北共同声明(南北赤十字社が仲介になり、朴正煕・金日成の下、【外部勢力に依存せず、武力行使でなく平和的方法で、制度の差異を超えて民族的大団結】)、1991年南北基本合意書(盧泰愚・金正日の下、【南北交流協力】)、2000年南北共同宣言(金大中・金正日の下、【連合連邦制の方向】)、2018年板門店宣言(文在寅・金正恩の下、【朝鮮半島の非核化に努力、朝鮮戦争の終戦を目指す】)。北側から見ると、朝鮮戦争で南進統一の一歩手前でアメリカが介入した恨みがある。対南工作(南南葛藤)は続いて、交流協力は北側の都合でしばしば変更になった。

~「6カ国協議」は、主に【北朝鮮の核開発】を議題にする。<核開発に関しては、北朝鮮は米国との直接交渉を希望して韓国を相手にしないが、米国は断るということがあった。>交渉を実現するために、北朝鮮に影響力がある中国を引き込み、合わせて関係国(日露韓)も参加する、というのが6カ国協議だった。

~背景に【米朝枠組み合意1994.10】を北朝鮮が守らなかったことがある。

1.北朝鮮の黒鉛減速炉および関連施設を軽水炉に転換する。このために軽水炉2機を建設する。

2.米国は軽水炉1号機が完成するまで、北朝鮮に対して代替エネルギー(年間50万トンの暖房・発電用重油)を供給する。

3.北朝鮮は黒鉛減速炉と関連施設の建設を凍結し、最終的にはこれらを解体する。

4.米朝は国交正常化に向けて行動する。

~6カ国協議で、米国はCVID【完全、検証可能かつ不可逆的な核廃棄】、【完全な核放棄まで見返りを与えない】立場だったが、2007年合意内容は、「見返り」を含むもので、かつ北朝鮮が合意に反する核開発を続けていた。これは2018年に北朝鮮が主張した「段階的かつ(制裁解除・経済支援と)同時並行的な交渉」そのもので、「核・ミサイル開発凍結」を約束しては、制裁解除・食糧支援・経済支援を得ながら、裏で開発を続ける【対話と援助による核放棄交渉は失敗を繰り返した】前例になる。

~北朝鮮が【6カ国協議2007年合意内容】を守らなかったため、米韓の軍事演習、国連による経済制裁で対抗してきた。

~前記【2017年の核・弾道ミサイル危機】に至り、核・弾道ミサイルが米国本土に届く可能性が出てきて、後記【米朝会談~2018.7】に至る。米国が、北朝鮮との直接交渉に乗り出したので、多国間で利害が錯綜する6カ国協議を再開するよりも、【米朝会談~2018.7】の約束履行を北朝鮮に求めて、【完全な核放棄まで見返りを与えない】のが良いということになる。


Ⅲ【米朝会談~2018.7

〔中朝〕

~前記【2017年の核・弾道ミサイル危機】の中で、金正恩とトランプは悪口の応酬をしている。「チビのロケットマン」「北朝鮮の核兵器より米国の方がはるかに強い」北朝鮮を米国が軍事攻撃する可能性も皆無ではない状況になっていた。

~対北朝鮮穏健派のティラーソン国務長官が解任されて、後任は「金正恩斬首作戦」のポンペオCIA長官。更に北朝鮮の政権転覆を公言するボルトン元国連大使が、大統領安保補佐官に指名された。北朝鮮から見れば「首脳会談シフト」ではなく「戦争シフト」。

~金正恩「トランプと対立したら中国はどこまで助けてくれるか?」中国が後ろ盾になってくれれば、トランプ大統領と「決裂」しても、即刻戦争となったり、空爆を受けるリスクは激減する。

~北朝鮮の核・弾道ミサイル開発に対する経済制裁では、北朝鮮の貿易の9割を占める中国による制裁が打撃だった。

~北朝鮮「中国とは、過去に色々あったが、今後米国トランプ政権とのハードな交渉が待ち受けていることもあり、関係を修復する時期に来ている。」20183月、金正恩委員長が北京訪問。201112月に、金正日総書記が急死し政権を引き継いで以来、初めて北朝鮮を離れる。

~習近平国家主席「中朝の友誼の伝統を引き継いでいる。」【第一に、両国リーダーの往来。第二に、戦略的な意思疎通。第三に、平和的な発展を進める。第四に、両国民の友好的な往来を増やす。】半島の平和と安定を維持し、<対話と交渉>を通した問題解決を図る。

~また米国との貿易戦争が始まって以降、中国では急速に「北朝鮮屏風論」が復活している。すなわち、中国が米国に対抗していくには、北朝鮮を「屏風」として利用するべきだという毛沢東時代からの伝統的な考え方だ。


〔米朝〕

~前記【2017年の核・弾道ミサイル危機】の中で、北朝鮮を米国が軍事攻撃する可能性も皆無ではない状況になっていた。

~また最大限の圧力だけが北朝鮮に通用すると「2018年は過去10年の合計よりも厳しい対北朝鮮制裁を実施した」

~朝鮮戦争は、米中・北朝鮮が署名した「休戦協定」が継続している。韓国は休戦を拒否して戦争状態のまま。中国と北朝鮮は軍事同盟があるが、どこまで機能するかは中国しだい。

~北朝鮮『金日成主席と金正日総書記の遺訓に照らし、半島の非核化実現に力を尽くすことは、われわれの終始一貫した変わらぬ立場。南朝鮮とアメリカが、われわれの努力に善意をもって応えるならば(制裁解除と経済支援)、平和と安定の雰囲気を醸成し、平和実現のために段階的かつ同時並行的な措置を取る。トランプ大統領は、「完全で不可逆的で検証可能な非核化」を強く求めている。われわれが求めているのは、「アメリカとの平和協定の締結(朝鮮戦争の終了)」であり、「北南の同胞が主体となった朝鮮半島の統一」だ。

~朝鮮戦争の1950年当時に釜山付近を除いて、 ほぼ朝鮮半島を占領して韓国を滅ぼすことで半島の共産化をできるところをアメリカによって阻止されたと考えている北朝鮮は、赤化統一を阻止したアメリカを平和協定によって半島から米軍を撤収させて最終的に韓国を影響下に置くことが目的であると指摘されている。


~【事前折衝で、相違が解消しないまま、20186月、シンガポールで、米朝会談を行った。】

<米朝共同声明>

1新たな米朝関係の構築に取り組む。

2朝鮮半島での恒久的で安定的な平和体制の構築に向け、協力する。

3「板門店宣言」2018.4を再確認し、朝鮮民主主義人民共和国は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む。

4朝鮮戦争の捕虜・行方不明兵の遺骨回収に取り組む。

米朝首脳会談の成果を履行するため、「マイク・ポンペオ国務長官と朝鮮民主主義人民共和国の高官の交渉を続けて可能な限り迅速に履行する」「新たな米朝関係の発展と、朝鮮半島と世界の平和、繁栄、安全のために協力する」ことを約束した。



~トランプ大統領は会談後に、【北朝鮮の安全を保証する】【米韓軍事演習を中止する】【制裁を続ける】と発言した。

~米朝会談の結果について、失敗という批評がある。「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」という文言が無い、「非核化の具体策、期限が無い」、それにも係わらず、安全を保証、軍事演習中止は譲歩し過ぎだ。しかし他方、「制裁を続ける」のは、過去の「6カ国協議」のような、「段階的非核化・段階的制裁解除」を否定している。

~【「北朝鮮の安全を保証する」は「security guarantee」で「米国が北朝鮮を攻撃しない」ということ。ただし共同声明文に直接的な文言は無く、第2項「朝鮮半島での恒久的で安定的な平和体制の構築に向け、協力する」で読み取れるだけ。また第3項の「朝鮮民主主義人民共和国は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む」とセットになっている。更に今回の会談では、北朝鮮が望む「朝鮮戦争の終結宣言」をしていない。第1項、第2項で平和に向け協力するが、それは第3項の非核化とセットであり、これらの約束を守らなければ、現在の「休戦協定」の状態から何ら変わることはない。】

~【更に、米朝首脳会談の成果を履行するため、「マイク・ポンペオ国務長官と朝鮮民主主義人民共和国の高官の交渉を続けて可能な限り迅速に履行する」「新たな米朝関係の発展と、朝鮮半島と世界の平和、繁栄、安全のために協力する」ことを約束した。】この国務長官の交渉で、「非核化の具体策、期限」を決め、「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」を実現する構造になっている。技術的にも完全非核化には長期間かかると言われている。

~前記の【2017年の核・弾道ミサイル危機】のような核・弾道ミサイル実験が続いて日本列島を横切るような緊張対立は中断した。



2018612日の米朝会談の直後、619日に金正恩は3月、5月に続く3度目の訪中をした。結局今回の米朝会談では、過去の「6カ国協議」のような「段階的非核化・段階的制裁解除」を得られず「制裁を続ける」ため、【中国だけでも制裁緩和・経済支援をしてほしい。】また【引き続く非核化交渉が決裂した場合や、本当に非核化した場合に、北朝鮮が米国の軍事的脅威に晒されるときに、中国に後ろ盾になってもらい、米国と即刻戦争になったり、空爆を受けるリスクを回避したい】、ということが考えられる。


~韓国と北朝鮮が今年(20183度目の9月南北会談開催で合意したことに対して、2018.8.13 米国務省の報道担当者は「南北の関係改善が北朝鮮の核問題解決に先行することはない」と述べた。韓国に制裁緩和など安易な譲歩をしないよう念押しする意向がある。韓国は南北関係改善のため対北朝鮮制裁に例外を認めることを米政府に要請しているが、米側は否定的な立場を崩していない。もし韓国からの経済支援を認めれば、過去に【対話と援助による核放棄交渉は失敗を繰り返した】ことを更に繰り返すことになる。


【参考、Webサイト】

2018年米朝首脳会談」Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/2018%E5%B9%B4%E7%B1%B3%E6%9C%9D%E9%A6%96%E8%84%B3%E4%BC%9A%E8%AB%87

「米朝会談は、結局のところ「成功」か「失敗」か」週間東洋経済プラス

https://toyokeizai.net/articles/-/224949

2018.6.27金正恩が米朝会談後に「中国属国化」の道を選んだ理由」DIAMOND online

https://diamond.jp/articles/-/173369

2018.6.14米朝首脳会談、「具体性なし」でも評価すべき理由」DIAMOND online

https://diamond.jp/articles/-/172371



【その3】<朝鮮半島、核・弾道ミサイル開発、南北会談、米朝会談~2018.7>



 Ⅳ【日朝、核・弾道ミサイル、拉致】、Ⅴ【見通し2018.7~】

https://ameblo.jp/t1997/entry-12403158665.html