町の氏神様で毎年7月に行われるお祭りが、子供の頃は夏休みの始まりの合図だった。三日間のお祭りの初めの二日間、手筒花火の奉納が行われる。
本殿の真ん前、参道を本殿から10メートル程下がった場所が花火の立ち位置だ。それほど大きくない神社なので、参道を挟んで5メートル程で観客の人垣になる。つまり、結構間近で見ることができるのだ。私は小学生の頃から毎年その辺りで見ていた。「リングサイド」と呼んでいた。リングサイドで見てから帰宅すると、手筒花火の火柱が降ってきたものが、無数の黒い小さな煤となって、自分の服に着いている。
この花火は氏神様への「奉納」だから、手筒花火を持つ人は点火した後、発火し始めた花火を持ったまま本殿に向かって一礼する。それからは仁王立ちで踏ん張る。「シャーーーーーッ!」と橙色の火柱が夏の夜にそびえ立つ。境内の木々が照らされ、夜なのに杜の中にいることがよくわかる。数十秒後に「ズドーーーン!」という大砲のような音と共に爆ぜておしまいだ。急に静寂が来る。一泊遅れてお客さんたちの拍手。
これが二夜繰り返される。私にとって懐かしい故郷の風景だ。
その手筒花火が、大須観音で見られるというので行ってみた(雪駄で)。
境内には、移動ができないほどのものすごい数の人。花火が始まると一斉にiPadやスマートフォンが頭上に掲げられる。「大筒」という両手で抱えるでかいものではなく、片手サイズの花火を手にした8人が火柱を上げる。残念なことに最後の「ズドーーーン!」はないタイプのものだった。しかし、久しぶりに見る手筒はやっぱり美しかった。
…いかん、どうしても地元を思い出してしまう…!
そしたら、不意に、手筒に「お前は都会で何をやってるんだ?」と問われた気がしてきた。懐かしい記憶が、その頃からしたら自分の「将来」である今の私に、「しっかりしろ」と言っている気がしてきた。
―――久しぶりに会ったら、何だ、今のお前は?ぬるま湯に浸かって心地よさそうだな。
―――今のままでいいのか?良くないって気づいているから変わりたいんだろう?
―――自分の道は自分で決めろよな。
―――どんどん迷いなさい。どんどん試しなさい。
そうなんだよなあ。甘えることを甘えちゃってるもんなあ。
決断すべきことは、決断しなきゃ。

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