★9月29日(日)、下記作品が無料購読できます | 《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

■好きな音楽、好きな映画、好きなサッカー、好きなモータースポーツなどをちりばめながら、気ままに小説(253作品)・作詞(506作品)を創作しています。ブログも創作も《Evergreen》な風景を描ければと思っています。

★Kindle 本 小説(amazon)販売中!

※Kindle 本 小説(amazon)販売中! 1冊100円

★9月29日(日)、下記作品が無料購読できます

小説短編集   【91】キネマの旅人(原稿用紙30枚)


※智樹が大学の卒業作品の制作に取り掛かってから早くも1ヶ月が経とうとしていた。今都内にある芸術大学の映画学科の4年生になっていた智樹は、自身の卒業作品の制作で正直壁にぶち当たっていた。限られた映画製作スタッフの活用時間は、既に限界の数値に近づいてきていた。
 
 それと言うのも智樹は、出来るだけ撮影すべき対象物についてはリアルな映像であることに固執していた。例えば早朝の大都会の街の風景の撮影に、撮影スタッフたちにも一番電車での集合を求めた。だがその日の撮影で気に入った風景が撮れなかった時には、翌朝にも同様の撮影をスタッフたちにお願いした。
 
 そんな拘りを見せる智樹に対して撮影スタッフたちからは、それほどの違いないのに拘り過ぎだと言う声が上がっていた。中には智樹の耳に届くかのように、まるで大物監督にでもなったつもりでもいるんじゃないかと声を上げる者さえ出て来ていた。

 更には、もともとドキュメンタリー映画の制作でもあるまいし効率的にCG映像を使用すればいいと具体的な内容にまで智樹の耳には撮影スタッフから届いていた。だが結論から言えば、そんな周囲からの声に智樹が妥協することはなかった。

 そもそも現実の世界とCGで描き出す世界の見分けがつきにくくなっていることに、基本的に智樹は違和感を覚えていた。見分けがつかないからと言っても、CGは何処までいってもリアルではない。この当たり前の現実の前で智樹は身動きが取れなくなっていたのだ・・・。


91000000.jpeg

小説短編集  【92】バス・ストップ物語(原稿用紙30枚)

※陽介は授業が終わりアルバイトもなかったので、正門から少し外れたバス停に立っていた。大学4年生になっていた陽介は、1年前までは自宅から大学までの通学に地下鉄を使っていた。だがちょうど1年前祖母が亡くなってから地下鉄に乗ると、どうにも息苦しく感じられるようになってからバス通学をするように変っていた。
 
 バス停から5つ目のJR駅で総武線に乗り換えて三鷹の自宅まで通学していた陽介は、三鷹の自宅で長い間祖父母と暮らしていた。それと言うのも陽介の両親は陽介が幼稚園の時に、交通事故で2人とも亡くなっていた。幼い陽介は父の実家の祖父母のもとで22歳まで育った。
 
 正直1年前に母親代わりとなって陽介を育ててくれた祖母が亡くなった時に味わった喪失感は、陽介が生れて始めて味わうそれと言えた。そしてその喪失感は、時の流れだけでは解きほぐしてくれることはなかった。それと言うのも一人っ子の陽介は祖父と2人暮らしになってから、どうにも祖父が小さく見えてならなかった。
 
 陽介は祖父母からの際限のない愛情に包み込まれて育ってきていたので、両親が亡くなっていても独りという事を強く意識することなど一切なかった。それが1年前に祖母が亡くなってからは、突然残された祖父が小さく見えたりと明らかに陽介の中で何かが変わってしまっていた。
 
 73歳の祖父は今まで大病などとは無縁であったが、それでもいつまでも元気で陽介に寄り添ってもらえるとは言えなかった。祖母が亡くなってから陽介は、出来る限り祖母のいない負担が祖父に掛からないようにと自分なりに精一杯の努力はしてきていた。
 
 朝が弱かった陽介だったが祖母が亡くなってからは、毎朝早起きして祖父と一緒に朝食をとるようにしていた。夕食もウイークデイは配達してくれる夕食で済ませていたが、土日だけは陽介は祖父と一緒になって自炊をすることにしていた。すでに1年間が経っていたこともあり、最近では陽介が作る料理も充実したものになっていた・・・。


92000000000.jpeg