オリジナル小説 【心にハングリー・ハートを】(第2回) | 《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

■好きな音楽、好きな映画、好きなサッカー、好きなモータースポーツなどをちりばめながら、気ままに小説(246作品)・作詞(506作品)を創作しています。ブログも創作も《Evergreen》な風景を描ければと思っています。

★Kindle 本 小説(amazon)販売中!

今日はこの時期に毎年、田口が担当していた嫌な仕事が待っていた。その仕事とは掲示板に新年度から上部組織にステップアップして、プロ契約を結ぶことになった選手たちの氏名が記載されているリストを貼り出すことだった。今から何十年前若かった田口自身は、残念ながらプロへの道へステップアップすることが出来なかった。

複数のチーム関係者から関心は持たれていたが、どのチームも最終的には田口とプロ契約を結ぶことはなかった。今田口が管理しているピッチ上を走り回っている若者たちの分岐点になるかもしれない大変重たい内容が、田口が張り出すリストには込められていたのだった。

そしてそんな中で一番気掛かりなのが、田口の息子と同年齢の23歳の選手たちだった。彼等は今年上部組織にステップアップできなければ、下部組織のU23のチームを離れなければならなかった。U23のチームに所属している間は、Jリーグ下部組織で編成されたサッカー大会へ選手としてプレーするチャンス与えられていた。だがそのU23を離れてしまうと、プロとして契約をしてもらえるかにJリーグでプレーすることが出来るかが掛かっていたのだ。

今年一番気になっていたのが隼人君だった。田口は隼人君をそれこそ幼稚園生の時から見続けて来ていた。今年田口のクラブのU23のチームで23歳と言う区切りの歳を迎えていたのは、隼人君以外に2人いて全部で3人だった。その内隼人君を除く2人は、それぞれ自分の実家にある地方都市のクラブチームとプロ契約を結んでいた。

それと言うのもその2人は、実力的にJリーグのトップカテゴリーでプレーしてみたいと言う気持ちがさほど強くなかった。23歳になるまでに既に上部組織とプロ契約をしていた仲間もいた訳で、最後まではっきりしなかったのが隼人君独りだけと言うことになっていた。

事務所で掲示板に張り出すリストを手にした時、リスト上の名前の中に隼人君の名前があるか確認した。残念ながら新年度から上部組織にステップアップしてプロ契約する選手名の中に、隼人君の名前は無かった。結果発表の午前10時になったので、田口はリストを掲示板に張り出した。

掲示板から田口が離れると、一斉に掲示板前に多くの若者たちが押しかけて来た。掲示板の前では互いの成果を称えあうように、大きな身体を次に次にぶつけ合って喜びを爆発させていた。その光景をクラブ事務所の出入り口で立ったまま見つめていた田口の所に、隼人君がやって来た。

『やっぱり駄目でした。今まで何の声掛けも無かったので、こうなることは覚悟していたのですがね。23歳になってこんな結末が待っていたなんて・・・』
隼人君が田口の隣に立って、掲示板の所を振り返りながら呟いた。
『まだ若いから・・・』
田口がそう言ったところで、隼人君がその話の続きを押し止めるように話して来た。

『今の時代、23歳のサッカー選手と言うのは若くはないですよ。最低限この年齢でJリーグのチームでプレーできなければ、プロのサッカー選手としての将来は無いでしょう。後は完全に趣味として、サッカーを続けていくしか無さそうです』
想像以上に隼人君が投げやりな言い方で話すので、田口はなかなか上手な言葉を探し出すことが出来なかった。

『田口さんには幼稚園児の頃からお世話になって、本当にありがとうございました。田口さんがコーチを辞めて芝の管理に回ったときは、すごく寂しかったですよ』
確かに隼人君が幼稚園児の頃には、もう田口は今のクラブで幼い子供たちのサッカークラブのコーチを始めていた。

『小さい頃から隼人君のプレーは、周囲の子供たちからは抜きん出ていたね。フェイントは小さい体でしっかりと体重移動をしてから掛けていたし、トラップは難しいボールでも足下でコントロール出来ていた。何と言ってもドリブルで相手を置いてきぼりにして、突破して行く速さは凄かったね。今でもあの時の鮮やかな動きが目に浮かぶようだよ』
田口は幼い頃の隼人君のプレーを思い出しながら呟いた。

『それは田口さんの贔屓目ですよ。実際、最終的にはトップレベルまで上がることが出来なかった訳ですからね。何時の時も自分の周りにいるライバルの方が、僕より優れた内容を持ち合わせていましたよ』
相変わらずの隼人君の態度に今は無理やり変な慰めみたいな言葉を投げ掛けるよりは、そっとしておいてあげた方がいいだろうと田口は考えた。それにしても隼人君が厳しい現実を前にして途方に暮れている姿が、田口にはどうしても遠い昔の自分の姿に似すぎている様に思えて仕方なかった。


88000000.jpeg

////////////////////////////////////////////////////////////////////////

※Kindle 本 小説(amazon)販売中!

■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 中編集(原稿用紙90~100枚)1作250円


【1】Tシャツとピンクの万年筆
【2】リバプールの旅人
【3】あなたがネクタイ外したから、私もヒールを脱ぐわ
【4】僕のプレイリストはタイムカプセル
【5】鳴らない風鈴
【6】切り分けられた林檎
【7】キャロルキングを聴きながら
【8】真冬のストローハット
【9】5年目のバレンタインデー
【10】セイントバレンタインデーの奇跡
【12】街角のバレンタインデー
【13】瞳の中のバレンタインデー
【14】バレンタインデー・ラプソディ
【15】ラストチャンス・バレンタインデー
【16】奇跡を呼んだナレーション
【17】コーヒーチケット1冊分の恋
【18】ハッピーエンドまでの君と僕とのセオリー
【19】ブロークンハート・イヴ
【20】グッドミュージックが生まれる街
【21】聖マルタンの夏
【22】ノン・アップデート・メモリーズ
【23】グッドバイ色の街だから
【24】雨の中のオレンジ
【25】君がヒロインになる瞬間(とき)
【26】シャッター音がくれた奇跡
【27】眠れない夜はニルソンを聴きながら
【28】リベンバーミー
【29】フォーマイセルフ&フォーユアセルフ
【30】ジョナサンがいた風景
【31】ファイナル・コンサート
【32】気分はアウトオブデート
【33】それぞれのダイアリー  
【34】あの頃君は駆け抜けて逝った  
【35】ミュージシャンたちの恋物語
【36】サマークリスマス
【37】ジーンズのある風景
【38】ゲバ字の消えた夏
【39】高校3年生のネアンデルタール人
【40】アルバート・ドッグを吹く風
【41】ワーズワースそして教授と私の旅
【42】天窓から眺めるロンドンの街
【43】チェスターの空の下
【44】ウクレレの音が流れる夏
【45】私は夢見るシャンソン人形
【46】いつか観たジョンレノン
【47】あの日聴いた夢のカリフォルニア
【48】懐かしいね、ガントレ!
【49】神楽坂で聴くサウンドオブサイレンス
【50】キャロルキングをお寺で
【51】サウンドトラックはユーミンで
【52】ルート66へに誘われて
【53】俺たちのジュークボックス
【54】キックオフは、これから!
【55】タイムカプセルからビートルズ
【56】2人のランナウェイ
【57】もうラヴソングは唄えない
【58】遅れて来たラヴレター
【59】君にとどけボーントゥーラン
【60】母はクラプトンが大好き
【61】タイムアフタータイムなんて
【62】シャーリーンの唄ですよね
【63】気分はハロー・グッドバイ
【64】クロスロードとオヤジたち
【65】サザンカンフォートを抱えた娘
【66】あなたがトミーで私がジーナ
【67】ロールプレイング・ラヴをあなたと
【68】パンタロンじゃなくベルボトムさ!
【69】俺は根っからのランブリング・マン
【70】タイムタイムタイム~冬の散歩道
【71】俺のロード・ソングは、ウィリン
【72】アメリカ《名前のない馬》から始まった
【73】ツェッペリンに包まれて
【74】ロイ・ブキャナンの流れる家
【75】フォークソングが消えた日
【76】終わらないメロディ
【77】俺もお前もストレンジャー
【78】ジョニ・ミッチェルで聴きたいね
【79】今さら、ハートに火をつけて
【80】アフリカを聴きながら
【81】プロコル・ハルムが唄っている
【82】ゼーガーとエバンズが教えてくれた
【83】ビタースウィート・サンバを取り戻せ
【84】ティアーズ・イン・ヘヴンなんて
【85】俺たちはフール・オン・ザ・ヒル
【86】このリフに魅せられて
【87】さらば黄昏のレンガ路よ
【88】心にハングリー・ハートを
【89】いつもジャーニーが流れていた
【90】ジャニスと踊ろう
【91】俺は今でも25or6to4
【92】君に捧げるララバイ
【93】ジャニスが語りかけた夜
【94】キリング・ミー・ソフトリーをあなたに
【95】恋をするならシェイクスピアで
【96】ゲーテが教えてくれた愛のシーズン
【97】僕と君だけのファーザー・クリスマス
【98】恋する気分は、ヴェルレーヌから
【99】愛を語るならヴェッキオ橋で
【100】ショーシャンクの空が・・・
【101】ビーハイブ・ヘアの女(ひと)
【102】カセットから流れ出たメロディ
【103】オヤジたちのスタンドバイミー
【104】届かない、君へのラブソング
【105】マージー・ビートに魅せられて
【106】父のギターが残してくれたもの
【107】夜のパリ、それはラヴレターの香り
【108】閉ざされたままのギターケース
【109】雨の日には、グラント・グリーンでも
【110】ボースサイドナウが流れる喫茶店で
【111】恋のリフレイン
【112】ベイビーが流れていた季節
【113】フォロー・ミーに誘われて
【114】それでも、あなたにラヴソングを
【115】想い出のコンサート・チケット
【116】スターダストをあなたと
【117】ナローボートで素敵な恋を!
【118】ライトハウスで出逢った、あなたへ
【119】レモンの木の下で
【120】2度目のチャイルドフッドフレンド
【121】ミニシアターより愛を込めて
【122】あの時YESと言えていたなら
【123】ソリチュードに包まれて
【124】窓辺のロミオ&ジュリエット
【125】フラに恋する君に恋した僕
【126】ミルキーウェイで、さよならを
【127】コイントスで決めた恋
【128】二人の恋はメリーゴーランド
【129】スラッキー・ギターに魅せられて
【130】ソー・ファー・アウェイが流れる街
【131】メッセージノートのある喫茶店
【132】恋のワン・ウェイ・チケット
【133】ベルベッド色の恋
【134】神楽坂ラヴ・ストーリー
【135】すれ違いのスウィート・ハート
【136】リッスン・ツー・ザ・レイディオ
【137】夏のレムナント
【138】ダウンタウンボーイ
【139】中央フリーウェイ
【140】AVALON
【141】フォーカス
【142】Midnight Scarecrow
【143】セシルの週末
【144】街角のペシミスト
【145】ジャコビニ彗星の日
【146】ツバメのように
【147】ダイヤモンドダストが消えぬまに
【148】イチゴ白書をもう一度
【149】ベルベッドイースター


149999999.jpeg

■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 長編集(原稿用紙300枚~450枚)1作500円

【1】校内放送でビートルズ
【2】府立第14中~青春グラフィティ!
【3】そうだドルフィンへ行こう
【4】夜のグラフィティ
【5】もう一度聴いてみようかホテルカリフォルニア 
【6】今何故、500マイルも離れて
【7】坊っちゃん、フォーエバー
【8】ブローイングインザウィンドでも聴いてごらん
【9】木登り~タイムワープ


999999999999.jpeg

■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 短編集(原稿用紙~50枚)1作100円

【1】夜空と波間の彼方に
【2】深大寺ラヴストーリー 
【3】ダブルレインボーの彼方に
【4】真冬のウインド・チャイム 
【5】ギターケースの中のラヴレター 
【6】横浜ロックンローラー 
【7】遅れて来たフラワーチルドレン 
【8】阿波人形浄瑠璃ラブソディ
【9】真っ赤なマニュキアの指先を見つめた夏
【10】君がいた街角
【11】聴かせてよ、あのリフを!
【12】ワイパーの向こうで消えた女性(ひと)
【13】さよなら、ミュージシャン
【14】ボーカルインストラクターの夢追い人
【15】写譜屋の恋物語
【16】スポットライト・グラフィティ
【17】リペアマン・ブルース
【18】歌えないラヴソング
【19】夢捨て人のハーモニー
【20】君の名前が消えたエンドロール
【21】ユア・シックスティーン
【22】ピアノのある喫茶店
【23】旅人からのリクエスト
【24】君への恋心をアップデート
【25】トラックドライバーの独り言
【26】サリンジャーを手にした君へ
【27】ハイタッチなんて似合わない
【28】君の知らないイエスタデイ
【29】君へ送るハートビート
【30】エルトンからの贈物
【31】君に聴かせたいメロディ
【32】31文字のラヴレター
【33】48時間のランナウェイ
【34】君が遺した風景だから
【35】恋のロングバケーション
【36】私の彼はトラベラー
【37】ミュージシャンからの恋文
【38】さよならグッドメモリー
【39】恋のスターティンググリッド
【40】横浜バイザシー
【41】冷たい雨が好きだから
【42】街角ピアノ物語
【43】キネマのある街
【44】本日限りが好きだから
【45】この曲にはフルートが必要だから
【46】テイク・ミー・アロング
【47】3年越しのデスティニー
【48】あの日の君の肖像画
【49】奇跡のハーモニー
【50】ポートレイトの君は誰なの?
【51】雪降る街でサヨナラを
【52】永遠のチャイルドフッド・フレンド
【53】ミルキーウェイって何色?
【54】フラガールのいた夏
【55】消えないグラフィティ
【56】ドルフィンに連れてって
【57】校内放送なんて聴かないよ
【58】ジュークボックスのある風景
【59】君と僕とのタイムカプセル
【60】ギターケースの中の青春
【61】フォークソングが流れていた季節
【62】サマー・オブ・ラブを知ってる?
【63】グッドバイブレーション
【64】レオンラッセルで聴きたいから
【65】何故君はキャロルキングが好きなの
【66】メッセージボードのある駅
【67】僕が反逆児だって?
【68】街角グラフィティ
【69】すれ違いのダイアリー
【70】永遠の噓だったなんて
【71】ジュークボックスが鳴り続けてる
【72】君が好きだったプレイリスト
【73】深夜放送ラプソディ
【74】マイ・ララバイ・ソング
【75】オブラディ・オブラダ
【76】ミュージック・メモリーの奇跡


76000000.jpeg