オリジナル小説 【心にハングリー・ハートを】(第1回) | 《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

■好きな音楽、好きな映画、好きなサッカー、好きなモータースポーツなどをちりばめながら、気ままに小説(238作品)・作詞(506作品)を創作しています。ブログも創作も《Evergreen》な風景を描ければと思っています。

★Kindle 本 小説(amazon)販売中!

季節は春、人の出入りが激しくなる季節を迎えていた。もっとも俺については、毎年希望に満ちた門出を迎えた少年や生まれて初めての挫折を前にして唇を噛みしめている少年をただ遠くから眺めているだけだった。田口は今プロサッカーチームの練習用グランド管理の仕事をしていた。

今のグランドはもともとメガバングの社内グランドだった場所を今のチームが、銀行が不良債権問題で厳しい経営状況になった時に買い取ったものだった。

敷地面積約2万坪と言う広大な敷地の中には、クラブ事務所、社長室、監督室、強化スタッフルーム、選手用ロッカー・食堂などが入っているクラブハウス、そしてメイングランド、サブグランドの2面の天然芝のグランドなど立派な施設が整っていた。もともと田口がこのプロサッカーチームの元にやって来た時は、U23チームのコーチとしてやって来ていた。

もっともこのチームの所に落ち着くまでにも、田口はサッカー選手としても様々なチームを渡り歩いて来ていた。田口が20代前半の頃には、それなりに多くのチームから声が掛かるプレイヤーだった。それが30代近くになる頃には、何処からもプレイヤーとしては声が掛からなくなっていた。

田口自身はまだまだ現役続行を考えていたが、こればかりはいくら田口が熱望しても実際にプレイヤーとして契約してくれるサッカーチームが現れなければ無理なことだった。寧ろ田口が大学卒業のプレイヤーだったせいかもしれなかったが、様々なサッカーチームの親会社での正社員として働いてくれとの声が掛かる事も多かった。

それでも田口はどうしても、自分のサッカー選手としての一流選手になる夢を追い求めたピッチから離れることが出来なかった。そんな田口はもう今年で56歳を迎えようとしていた。さすがにもういつクラブから解雇されてもいい年代に近づきつつあった。

それでもある意味職人気質の世界になりつつあったピッチの芝管理のノウハウを、何十年も積み重ねていた経験が田口をこのクラブのもとに留まらせていた。西洋芝の夏型芝ティフトンと冬型芝ライグラスの両方を使用して作り上げたピッチは、クラブチームの練習用グランドとして関係者から高く評価されていた。田口は独り暮らしだった。

田口が若い頃、結婚して子供も1人授かっていた。だがその結婚生活は長く続かなかった。離婚の理由は、田口の中では自分自身のエゴが一番だったと思っていた。幼かった男の子は離婚した妻が引き取っていた。当時田口は子供も生まれたと言うのに現役サッカー選手に拘って、安定した家庭生活を確保することなど全く考えていなかった。

そんな田口の考え方は、当時の妻を経済的な自立への意欲を駆り立てる事となった。もともと妻には事業意欲があったのか、それとも田口があまりにも頼り甲斐が無かったせいなのか当時の田口にはよく分らなかった。いずれにせよ子供を連れて田口のもとを去っていった妻は、離婚後暫くして女性事業家として大成功を収めていた。

田口は離婚後、一度も元の妻や1人息子と会うことは無かった。今年その男の子はもう23歳になっているはずだった。勿論今までに何度も子供に会いたいと思ったことはあったが、その都度その自分の気持ちを抑え込んでいた。田口には自分がいつまでも家庭を省みずに自分の好きな事に熱中したことが、離婚の最大の理由だったと思い続けていた。

夢を追い求め続ける夫をひたすら影から妻が支えるなんて、作り話の世界の話だった。妻の前に拡がる現実の生活への不安は妻を自立への道へ走らせた。そしてそれは妻の潜在的能力の事業と言う場での発揮に繋がった。その成功も大成功と言うおまけまでついていた。社会的に大成功した母親の下で、何不自由なく健やかに育っているはずだった息子に一度たりとも夢が破れ去った父親など必要は無かった。

少なくとも田口の中では、そう結論付けていた。だからこそ今まで、息子に会いたいと別れた妻に申し入れたことは無かった。56歳になっていた田口は、そんな妻や息子と離ればなれになった20代後半に自分のやりたいことを徹底的にやり抜く事だけを考えていた。人生は短い、年老いてからああしておけばよかったなどと考えたくなかった。

そして気が付いたら、今田口は、その年老いた世界に我が身をおいていた。田口は自分だけのことを考えてみるとやりたいことをずっとやって来たお蔭で、俗な言い方での後悔などと言う言葉は何処にも存在していなかった。ただ年老いて来るにつれて職場であるピッチ上で躍動している若者たちの姿の中に、つい幼い頃に離ればなれになった息子の姿を追い求めていることが増えて来ていた。


88000000.jpeg

////////////////////////////////////////////////////////////////////////

※Kindle 本 小説(amazon)販売中!

■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 中編集(原稿用紙90~100枚)1作250円


【1】Tシャツとピンクの万年筆
【2】リバプールの旅人
【3】あなたがネクタイ外したから、私もヒールを脱ぐわ
【4】僕のプレイリストはタイムカプセル
【5】鳴らない風鈴
【6】切り分けられた林檎
【7】キャロルキングを聴きながら
【8】真冬のストローハット
【9】5年目のバレンタインデー
【10】セイントバレンタインデーの奇跡
【12】街角のバレンタインデー
【13】瞳の中のバレンタインデー
【14】バレンタインデー・ラプソディ
【15】ラストチャンス・バレンタインデー
【16】奇跡を呼んだナレーション
【17】コーヒーチケット1冊分の恋
【18】ハッピーエンドまでの君と僕とのセオリー
【19】ブロークンハート・イヴ
【20】グッドミュージックが生まれる街
【21】聖マルタンの夏
【22】ノン・アップデート・メモリーズ
【23】グッドバイ色の街だから
【24】雨の中のオレンジ
【25】君がヒロインになる瞬間(とき)
【26】シャッター音がくれた奇跡
【27】眠れない夜はニルソンを聴きながら
【28】リベンバーミー
【29】フォーマイセルフ&フォーユアセルフ
【30】ジョナサンがいた風景
【31】ファイナル・コンサート
【32】気分はアウトオブデート
【33】それぞれのダイアリー  
【34】あの頃君は駆け抜けて逝った  
【35】ミュージシャンたちの恋物語
【36】サマークリスマス
【37】ジーンズのある風景
【38】ゲバ字の消えた夏
【39】高校3年生のネアンデルタール人
【40】アルバート・ドッグを吹く風
【41】ワーズワースそして教授と私の旅
【42】天窓から眺めるロンドンの街
【43】チェスターの空の下
【44】ウクレレの音が流れる夏
【45】私は夢見るシャンソン人形
【46】いつか観たジョンレノン
【47】あの日聴いた夢のカリフォルニア
【48】懐かしいね、ガントレ!
【49】神楽坂で聴くサウンドオブサイレンス
【50】キャロルキングをお寺で
【51】サウンドトラックはユーミンで
【52】ルート66へに誘われて
【53】俺たちのジュークボックス
【54】キックオフは、これから!
【55】タイムカプセルからビートルズ
【56】2人のランナウェイ
【57】もうラヴソングは唄えない
【58】遅れて来たラヴレター
【59】君にとどけボーントゥーラン
【60】母はクラプトンが大好き
【61】タイムアフタータイムなんて
【62】シャーリーンの唄ですよね
【63】気分はハロー・グッドバイ
【64】クロスロードとオヤジたち
【65】サザンカンフォートを抱えた娘
【66】あなたがトミーで私がジーナ
【67】ロールプレイング・ラヴをあなたと
【68】パンタロンじゃなくベルボトムさ!
【69】俺は根っからのランブリング・マン
【70】タイムタイムタイム~冬の散歩道
【71】俺のロード・ソングは、ウィリン
【72】アメリカ《名前のない馬》から始まった
【73】ツェッペリンに包まれて
【74】ロイ・ブキャナンの流れる家
【75】フォークソングが消えた日
【76】終わらないメロディ
【77】俺もお前もストレンジャー
【78】ジョニ・ミッチェルで聴きたいね
【79】今さら、ハートに火をつけて
【80】アフリカを聴きながら
【81】プロコル・ハルムが唄っている
【82】ゼーガーとエバンズが教えてくれた
【83】ビタースウィート・サンバを取り戻せ
【84】ティアーズ・イン・ヘヴンなんて
【85】俺たちはフール・オン・ザ・ヒル
【86】このリフに魅せられて
【87】さらば黄昏のレンガ路よ
【88】心にハングリー・ハートを
【89】いつもジャーニーが流れていた
【90】ジャニスと踊ろう
【91】俺は今でも25or6to4
【92】君に捧げるララバイ
【93】ジャニスが語りかけた夜
【94】キリング・ミー・ソフトリーをあなたに
【95】恋をするならシェイクスピアで
【96】ゲーテが教えてくれた愛のシーズン
【97】僕と君だけのファーザー・クリスマス
【98】恋する気分は、ヴェルレーヌから
【99】愛を語るならヴェッキオ橋で
【100】ショーシャンクの空が・・・
【101】ビーハイブ・ヘアの女(ひと)
【102】カセットから流れ出たメロディ
【103】オヤジたちのスタンドバイミー
【104】届かない、君へのラブソング
【105】マージー・ビートに魅せられて
【106】父のギターが残してくれたもの
【107】夜のパリ、それはラヴレターの香り
【108】閉ざされたままのギターケース
【109】雨の日には、グラント・グリーンでも
【110】ボースサイドナウが流れる喫茶店で
【111】恋のリフレイン
【112】ベイビーが流れていた季節
【113】フォロー・ミーに誘われて
【114】それでも、あなたにラヴソングを
【115】想い出のコンサート・チケット
【116】スターダストをあなたと
【117】ナローボートで素敵な恋を!
【118】ライトハウスで出逢った、あなたへ
【119】レモンの木の下で
【120】2度目のチャイルドフッドフレンド
【121】ミニシアターより愛を込めて
【122】あの時YESと言えていたなら
【123】ソリチュードに包まれて
【124】窓辺のロミオ&ジュリエット
【125】フラに恋する君に恋した僕
【126】ミルキーウェイで、さよならを
【127】コイントスで決めた恋
【128】二人の恋はメリーゴーランド
【129】スラッキー・ギターに魅せられて
【130】ソー・ファー・アウェイが流れる街
【131】メッセージノートのある喫茶店
【132】恋のワン・ウェイ・チケット
【133】ベルベッド色の恋
【134】神楽坂ラヴ・ストーリー
【135】すれ違いのスウィート・ハート
【136】リッスン・ツー・ザ・レイディオ
【137】夏のレムナント
【138】ダウンタウンボーイ
【139】中央フリーウェイ
【140】AVALON
【141】フォーカス
【142】Midnight Scarecrow
【143】セシルの週末
【144】街角のペシミスト
【145】ジャコビニ彗星の日
【146】ツバメのように
【147】ダイヤモンドダストが消えぬまに
【148】イチゴ白書をもう一度
【149】ベルベッドイースター


149999999.jpeg

■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 長編集(原稿用紙300枚~450枚)1作500円

【1】校内放送でビートルズ
【2】府立第14中~青春グラフィティ!
【3】そうだドルフィンへ行こう
【4】夜のグラフィティ
【5】もう一度聴いてみようかホテルカリフォルニア 
【6】今何故、500マイルも離れて
【7】坊っちゃん、フォーエバー
【8】ブローイングインザウィンドでも聴いてごらん
【9】木登り~タイムワープ


999999999999.jpeg

■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 短編集(原稿用紙~50枚)1作100円

【1】夜空と波間の彼方に
【2】深大寺ラヴストーリー 
【3】ダブルレインボーの彼方に
【4】真冬のウインド・チャイム 
【5】ギターケースの中のラヴレター 
【6】横浜ロックンローラー 
【7】遅れて来たフラワーチルドレン 
【8】阿波人形浄瑠璃ラブソディ
【9】真っ赤なマニュキアの指先を見つめた夏
【10】君がいた街角
【11】聴かせてよ、あのリフを!
【12】ワイパーの向こうで消えた女性(ひと)
【13】さよなら、ミュージシャン
【14】ボーカルインストラクターの夢追い人
【15】写譜屋の恋物語
【16】スポットライト・グラフィティ
【17】リペアマン・ブルース
【18】歌えないラヴソング
【19】夢捨て人のハーモニー
【20】君の名前が消えたエンドロール
【21】ユア・シックスティーン
【22】ピアノのある喫茶店
【23】旅人からのリクエスト
【24】君への恋心をアップデート
【25】トラックドライバーの独り言
【26】サリンジャーを手にした君へ
【27】ハイタッチなんて似合わない
【28】君の知らないイエスタデイ
【29】君へ送るハートビート
【30】エルトンからの贈物
【31】君に聴かせたいメロディ
【32】31文字のラヴレター
【33】48時間のランナウェイ
【34】君が遺した風景だから
【35】恋のロングバケーション
【36】私の彼はトラベラー
【37】ミュージシャンからの恋文
【38】さよならグッドメモリー
【39】恋のスターティンググリッド
【40】横浜バイザシー
【41】冷たい雨が好きだから
【42】街角ピアノ物語
【43】キネマのある街
【44】本日限りが好きだから
【45】この曲にはフルートが必要だから
【46】テイク・ミー・アロング
【47】3年越しのデスティニー
【48】あの日の君の肖像画
【49】奇跡のハーモニー
【50】ポートレイトの君は誰なの?
【51】雪降る街でサヨナラを
【52】永遠のチャイルドフッド・フレンド
【53】ミルキーウェイって何色?
【54】フラガールのいた夏
【55】消えないグラフィティ
【56】ドルフィンに連れてって
【57】校内放送なんて聴かないよ
【58】ジュークボックスのある風景
【59】君と僕とのタイムカプセル
【60】ギターケースの中の青春
【61】フォークソングが流れていた季節
【62】サマー・オブ・ラブを知ってる?
【63】グッドバイブレーション
【64】レオンラッセルで聴きたいから
【65】何故君はキャロルキングが好きなの
【66】メッセージボードのある駅
【67】僕が反逆児だって?
【68】街角グラフィティ
【69】すれ違いのダイアリー
【70】永遠の噓だったなんて
【71】ジュークボックスが鳴り続けてる
【72】君が好きだったプレイリスト
【73】深夜放送ラプソディ
【74】マイ・ララバイ・ソング
【75】オブラディ・オブラダ
【76】ミュージック・メモリーの奇跡


76000000.jpeg