オリジナル小説 【いつもジャーニーが流れていた】(第18回) | 《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

■好きな音楽、好きな映画、好きなサッカー、好きなモータースポーツなどをちりばめながら、気ままに小説(247作品)・作詞(506作品)を創作しています。ブログも創作も《Evergreen》な風景を描ければと思っています。

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その日、最後まで川名が飲み込んでいた言葉あった。《絵里は酒蔵の跡継ぎのことが重荷なのか?》と言う絵里への問い掛けの言葉だった。川名には絵里が海外の大学へ進学した事も帰国してすぐにフランスに向かった事も含めて、1人娘として恭子の様に酒蔵の経営を引き継がなければいけないと考えていたように思えてならなかった。

少なくとも幼い頃から絵里を遠くから見て来た川名には、絵里は恭子のような事業家としての活躍には興味がなかったように思われた。そんな絵里にとって、亡くなった祖父の時代よりもずっと以前から続いていた酒蔵の経営を引き継ぐことは重荷に映っていたに違いない。

川名はそう勝手に思い込んでいた。そして川名は、今は取り敢えず絵里にとって何でも気軽に相談できる相手になれるように行動して行くつもりだった。そんな勝手な川名の思い込みでももし当たっていたら、その事に関する絵里の葛藤を少しでも聞き入れてあげることが川名には出来ないだろうかと考えた。

絵里の中に何かモヤモヤしたものがあれば、せめてそれだけでも川名に話すことにより和らいでくれたらと単純に思った。何かから逃げ出すために挑んだ世界で何を得られると言うのだろう。もし酒蔵を継ぐ気が無いのなら、その事で恭子と向き合うべきだろうと川名には思えた。

それをせずにその現実から逃避するかのように海外の大学へ行きフランスで事業を起ち上げても、そこには初めから無理があるように思われた。もっと自分に素直に向き合って、一体自分が本当にやりたい事は何のかを考えてみたらいいだろうと川名は考えた。絵里は古本屋の香りが好きだと言った。

古本屋のおかれている状況は、年々いや日に日に厳しくなりつつあった。そんな世界を精神的な問題を抱え込んでいる絵里が、覗き込もうとしている。家から出る事もままならないと言う絵里が、何と自宅から遠方の川名の古本屋まで通って来ると言う。

少なくとも家に引き籠っていた絵里をおびき寄せるだけの何かが、川名の古本屋にはあるのかもしれない。そうではなくて、ただ単純にお祖父ちゃんの家から持ち出したダンボールの中から自分が取り戻したいと思っている本を捜したいだけなのかもしれない。そう言えば恭子が目の前に現れてから、川名は恭子と絵里のことばかり考えるようになっていた。

すっかり60歳になって、何らかの区切りを付けなければならない自分のことを考える事から離れてしまっていた。毎年歳の瀬に行われる大学時代の同人誌の総会で再会する佐藤との会話からは、気が付くと夢の欠片も無くなってしまっていた。

確かに60歳の男がいまだに夢の欠片を胸に秘めている方が、異常な事のようにも思える。それでも少なくともほんの数年前まで、佐藤とも川名も細やかな夢の欠片を握りしめていた。ところが昨年の佐藤は、しきりと60歳と言う年齢を気にしていた。今から思えば、佐藤は夢の欠片を手放す切っ掛けを捜していたのかも知れなかった。

その切っ掛けとして60歳と言う歳の区切りは、それなりに説得力をもつものであったのかもしれない。大学での同期生だった佐藤は、出版社を辞めてフリーのライターとして雑文を書きながら小説を書き続けて来た。川名と言えば銀行に就職して趣味で小説を書き続けようと考えたが、運命の悪戯で恭子と結婚して銀行を辞めて恭子の実家の酒蔵の経営を手伝うこととなった。

だがその結婚生活は絵里と言う子供を授かったと言うのに10年で破局を迎えてしまった。離婚後東京に舞い戻った川名は最終的に今の古本屋で働きながら、小説を書き続けて来た。そんな佐藤も川名も様々な出版社の新人賞に投稿して来たが、結果から言うと2人とも評価されることも無く今に至っていた。

佐藤と川名のもとに残ったのは、読まれることの無い小説作品の数々だけだった。60歳になっていた川名は、改めて人生は短いものだとつくづく思う様になっていた。幸いなことにずっと小説を書き続けて来たお蔭で、やり残した感のある悔いが残るものなど一切無かった。

結果が出たかどうかは別として、川名は自分がやりたいことをずっとやり続けて来た。ただ気が付くとそんなやりたいことをやり続けて来て、もう60歳を迎えていた。正直今後ともやりたい事をやり続けたいと思ってはいるが、60歳と言う区切りの年齢になり残された時間と言うものを意識するようになっていた。もういいと言うよりもっとしっかりと向きあいたいと願う気持ちの方が、強くなって来ていた。


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 中編集(原稿用紙90~100枚)1作250円


【1】Tシャツとピンクの万年筆
【2】リバプールの旅人
【3】あなたがネクタイ外したから、私もヒールを脱ぐわ
【4】僕のプレイリストはタイムカプセル
【5】鳴らない風鈴
【6】切り分けられた林檎
【7】キャロルキングを聴きながら
【8】真冬のストローハット
【9】5年目のバレンタインデー
【10】セイントバレンタインデーの奇跡
【12】街角のバレンタインデー
【13】瞳の中のバレンタインデー
【14】バレンタインデー・ラプソディ
【15】ラストチャンス・バレンタインデー
【16】奇跡を呼んだナレーション
【17】コーヒーチケット1冊分の恋
【18】ハッピーエンドまでの君と僕とのセオリー
【19】ブロークンハート・イヴ
【20】グッドミュージックが生まれる街
【21】聖マルタンの夏
【22】ノン・アップデート・メモリーズ
【23】グッドバイ色の街だから
【24】雨の中のオレンジ
【25】君がヒロインになる瞬間(とき)
【26】シャッター音がくれた奇跡
【27】眠れない夜はニルソンを聴きながら
【28】リベンバーミー
【29】フォーマイセルフ&フォーユアセルフ
【30】ジョナサンがいた風景
【31】ファイナル・コンサート
【32】気分はアウトオブデート
【33】それぞれのダイアリー  
【34】あの頃君は駆け抜けて逝った  
【35】ミュージシャンたちの恋物語
【36】サマークリスマス
【37】ジーンズのある風景
【38】ゲバ字の消えた夏
【39】高校3年生のネアンデルタール人
【40】アルバート・ドッグを吹く風
【41】ワーズワースそして教授と私の旅
【42】天窓から眺めるロンドンの街
【43】チェスターの空の下
【44】ウクレレの音が流れる夏
【45】私は夢見るシャンソン人形
【46】いつか観たジョンレノン
【47】あの日聴いた夢のカリフォルニア
【48】懐かしいね、ガントレ!
【49】神楽坂で聴くサウンドオブサイレンス
【50】キャロルキングをお寺で
【51】サウンドトラックはユーミンで
【52】ルート66へに誘われて
【53】俺たちのジュークボックス
【54】キックオフは、これから!
【55】タイムカプセルからビートルズ
【56】2人のランナウェイ
【57】もうラヴソングは唄えない
【58】遅れて来たラヴレター
【59】君にとどけボーントゥーラン
【60】母はクラプトンが大好き
【61】タイムアフタータイムなんて
【62】シャーリーンの唄ですよね
【63】気分はハロー・グッドバイ
【64】クロスロードとオヤジたち
【65】サザンカンフォートを抱えた娘
【66】あなたがトミーで私がジーナ
【67】ロールプレイング・ラヴをあなたと
【68】パンタロンじゃなくベルボトムさ!
【69】俺は根っからのランブリング・マン
【70】タイムタイムタイム~冬の散歩道
【71】俺のロード・ソングは、ウィリン
【72】アメリカ《名前のない馬》から始まった
【73】ツェッペリンに包まれて
【74】ロイ・ブキャナンの流れる家
【75】フォークソングが消えた日
【76】終わらないメロディ
【77】俺もお前もストレンジャー
【78】ジョニ・ミッチェルで聴きたいね
【79】今さら、ハートに火をつけて
【80】アフリカを聴きながら
【81】プロコル・ハルムが唄っている
【82】ゼーガーとエバンズが教えてくれた
【83】ビタースウィート・サンバを取り戻せ
【84】ティアーズ・イン・ヘヴンなんて
【85】俺たちはフール・オン・ザ・ヒル
【86】このリフに魅せられて
【87】さらば黄昏のレンガ路よ
【88】心にハングリー・ハートを
【89】いつもジャーニーが流れていた
【90】ジャニスと踊ろう
【91】俺は今でも25or6to4
【92】君に捧げるララバイ
【93】ジャニスが語りかけた夜
【94】キリング・ミー・ソフトリーをあなたに
【95】恋をするならシェイクスピアで
【96】ゲーテが教えてくれた愛のシーズン
【97】僕と君だけのファーザー・クリスマス
【98】恋する気分は、ヴェルレーヌから
【99】愛を語るならヴェッキオ橋で
【100】ショーシャンクの空が・・・
【101】ビーハイブ・ヘアの女(ひと)
【102】カセットから流れ出たメロディ
【103】オヤジたちのスタンドバイミー
【104】届かない、君へのラブソング
【105】マージー・ビートに魅せられて
【106】父のギターが残してくれたもの
【107】夜のパリ、それはラヴレターの香り
【108】閉ざされたままのギターケース
【109】雨の日には、グラント・グリーンでも
【110】ボースサイドナウが流れる喫茶店で
【111】恋のリフレイン
【112】ベイビーが流れていた季節
【113】フォロー・ミーに誘われて
【114】それでも、あなたにラヴソングを
【115】想い出のコンサート・チケット
【116】スターダストをあなたと
【117】ナローボートで素敵な恋を!
【118】ライトハウスで出逢った、あなたへ
【119】レモンの木の下で
【120】2度目のチャイルドフッドフレンド
【121】ミニシアターより愛を込めて
【122】あの時YESと言えていたなら
【123】ソリチュードに包まれて
【124】窓辺のロミオ&ジュリエット
【125】フラに恋する君に恋した僕
【126】ミルキーウェイで、さよならを
【127】コイントスで決めた恋
【128】二人の恋はメリーゴーランド
【129】スラッキー・ギターに魅せられて
【130】ソー・ファー・アウェイが流れる街
【131】メッセージノートのある喫茶店
【132】恋のワン・ウェイ・チケット
【133】ベルベッド色の恋
【134】神楽坂ラヴ・ストーリー
【135】すれ違いのスウィート・ハート
【136】リッスン・ツー・ザ・レイディオ
【137】夏のレムナント
【138】ダウンタウンボーイ
【139】中央フリーウェイ
【140】AVALON
【141】フォーカス
【142】Midnight Scarecrow
【143】セシルの週末
【144】街角のペシミスト
【145】ジャコビニ彗星の日
【146】ツバメのように
【147】ダイヤモンドダストが消えぬまに
【148】イチゴ白書をもう一度
【149】ベルベッドイースター


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 長編集(原稿用紙300枚~450枚)1作500円

【1】校内放送でビートルズ
【2】府立第14中~青春グラフィティ!
【3】そうだドルフィンへ行こう
【4】夜のグラフィティ
【5】もう一度聴いてみようかホテルカリフォルニア 
【6】今何故、500マイルも離れて
【7】坊っちゃん、フォーエバー
【8】ブローイングインザウィンドでも聴いてごらん
【9】木登り~タイムワープ


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 短編集(原稿用紙~50枚)1作100円

【1】夜空と波間の彼方に
【2】深大寺ラヴストーリー 
【3】ダブルレインボーの彼方に
【4】真冬のウインド・チャイム 
【5】ギターケースの中のラヴレター 
【6】横浜ロックンローラー 
【7】遅れて来たフラワーチルドレン 
【8】阿波人形浄瑠璃ラブソディ
【9】真っ赤なマニュキアの指先を見つめた夏
【10】君がいた街角
【11】聴かせてよ、あのリフを!
【12】ワイパーの向こうで消えた女性(ひと)
【13】さよなら、ミュージシャン
【14】ボーカルインストラクターの夢追い人
【15】写譜屋の恋物語
【16】スポットライト・グラフィティ
【17】リペアマン・ブルース
【18】歌えないラヴソング
【19】夢捨て人のハーモニー
【20】君の名前が消えたエンドロール
【21】ユア・シックスティーン
【22】ピアノのある喫茶店
【23】旅人からのリクエスト
【24】君への恋心をアップデート
【25】トラックドライバーの独り言
【26】サリンジャーを手にした君へ
【27】ハイタッチなんて似合わない
【28】君の知らないイエスタデイ
【29】君へ送るハートビート
【30】エルトンからの贈物
【31】君に聴かせたいメロディ
【32】31文字のラヴレター
【33】48時間のランナウェイ
【34】君が遺した風景だから
【35】恋のロングバケーション
【36】私の彼はトラベラー
【37】ミュージシャンからの恋文
【38】さよならグッドメモリー
【39】恋のスターティンググリッド
【40】横浜バイザシー
【41】冷たい雨が好きだから
【42】街角ピアノ物語
【43】キネマのある街
【44】本日限りが好きだから
【45】この曲にはフルートが必要だから
【46】テイク・ミー・アロング
【47】3年越しのデスティニー
【48】あの日の君の肖像画
【49】奇跡のハーモニー
【50】ポートレイトの君は誰なの?
【51】雪降る街でサヨナラを
【52】永遠のチャイルドフッド・フレンド
【53】ミルキーウェイって何色?
【54】フラガールのいた夏
【55】消えないグラフィティ
【56】ドルフィンに連れてって
【57】校内放送なんて聴かないよ
【58】ジュークボックスのある風景
【59】君と僕とのタイムカプセル
【60】ギターケースの中の青春
【61】フォークソングが流れていた季節
【62】サマー・オブ・ラブを知ってる?
【63】グッドバイブレーション
【64】レオンラッセルで聴きたいから
【65】何故君はキャロルキングが好きなの
【66】メッセージボードのある駅
【67】僕が反逆児だって?
【68】街角グラフィティ
【69】すれ違いのダイアリー
【70】永遠の噓だったなんて
【71】ジュークボックスが鳴り続けてる
【72】君が好きだったプレイリスト
【73】深夜放送ラプソディ
【74】マイ・ララバイ・ソング
【75】オブラディ・オブラダ


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