オリジナル小説 【ジャニスが語りかけた夜】(第15回) | 《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

■好きな音楽、好きな映画、好きなサッカー、好きなモータースポーツなどをちりばめながら、気ままに小説(260作品)・作詞(506作品)を創作しています。ブログも創作も《Evergreen》な風景を描ければと思っています。

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話しの語尾が中途半端になる聡美からの話が続いていた。
『大学を卒業して岡崎に戻ってからも暫く司法試験の勉強を続けていたのだけど、どうにも以前より記憶力が随分悪くなってしまって病院で診てもらったの。そして検査してもらったら、若年性認知症の初期症状として記憶障害が発生しているとのことだった。それから私もう司法試験は諦めて、父の事務所の手伝いをしていたの。その変わり私の妹が去年司法試験に合格したので、もう父の弁護士事務所の後継者の問題は解決されたの。私、病を背負い込んでしまったけど何故だか随分と気が楽になって、何となくこれでようやく自由になれたみたいに感じているわ』

恭一は淡々と自分の身に降りかかって来た出来事を話す聡美のすべてを、受け止めてあげたいと強く感じていた。
『どんな自覚症状があるのか分からないけど、病の方は2人でじっくりと向き合って行こうよ。岡崎のほうの事情は分かったから本当にいつでも聡美を待っているから、準備が出来たら俺の所に来て欲しい。聡美の新たな東京での生活に必要な物など、いくらでも出て来てから揃えればいいだろう』

『ありがとう』
その後恭一と聡美は大学時代の懐かしい話なども交えながら、ずっと2人きりで話をした。その夜聡美は久し振りに恭一の部屋に泊まった。

大学を卒業して生命保険会社に勤めていた時の恭一は、先輩から《最初からお前は会社を辞めるタイミングを探っていた》と言われるほど不安定な日々を送っていた。本当にやりたいと思えるものをライブハウスのオーナーである土屋さんから忘れて行ったと言われたバンド活動への未練なども重なって、当時の恭一には恒常的に喪失感が訪れていた。

そしてそれと同じくらいに恭一を寒々しい気持ちにさせていたのが、聡美と連絡が取れないと言うことだった。しかし恭一が3年勤めていた会社を辞めてから、それらのすべての流れが変わり始めていた。それも明らかに恭一にとって、自然と前向きなれる状況に変わって行っていた。

ただ最近そんな恭一が唯一気になる事があった。それはライブハウスのオーナーである土屋さんが、店に姿を見せない日が多くなって来ていた事だった。そもそも大学卒業後3年経って再び土屋さんのお店に顔を出して会社を辞めた事を伝えた時、その場で土屋さんは今のライブハウスの仕事を恭一に引き継いで欲しいと懇願した。

その時バンド活動の再開には関心があったが、恭一にはライブハウスの経営など全く興味さえなかった。だからその時には、やんわりと土屋さんからの声掛けを恭一は真正面から受け止めることはしなかった。ライブハウスの他のスタッフから、土屋さんが昔からずっと独り身だったことも聞いていた。

ひょっとして恭一はそんな土屋さんの自分に対する期待に全く応えていないのではないかと、最近は思えて仕方なかった。土屋さんが期待することに今の恭一が応えることは、正直無理な話しだった。折角大学時代に中途半端で放り出していたバンド活動に再挑戦するために、恭一は土屋さんのライブハウスに戻って来ていた。

今ではそんな恭一の想いが新しいバンドメンバーたちと出会う事も出来て、少しずつ前進して行きつつあった。今更土屋さんからの期待が見え隠れしているからと言って、恭一は新しいバンド仲間たちから離れていくことなど出来なかった。

正直会社勤めをしていた3年間を、恭一は取り返すことのできない無駄な年月だったと思っていた。だからこそ今の恭一には、無駄な時間や遠回りする時間などを手にすることは出来なかった。ただそこには問題が一つだけあった。それは独りきりに拘って生きてい来た恭一にとって、土屋さんと聡美だけがそんな拘りを越えた存在だったことだった。

さらにそんな自分の中の2人に対する特別の想いを、恭一が無条件に受け入れていた事だった。だからこそ最終的には、土屋さんの想いを恭一はずっと引き摺ることになっていた。恭一が大学を卒業する時に決断したバンド活動から抜けて生命保険会社に就職すると言う選択は、あの当時としては間違った選択ではなかったと恭一は今でも思っている。

あの時にこれでいいと判断したことが、それから3年後に明確に恭一の前に誤ったこととして姿を現すこととなった。そんな経験をしたばかりの恭一にとって、今折角手にしている新たな世界を手放すと言う選択は難しかった。例えそれが土屋さんの期待を裏切ることとなっても、どうにもならない事だった。


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 中編集(原稿用紙90~100枚)1作250円


【1】Tシャツとピンクの万年筆
【2】リバプールの旅人
【3】あなたがネクタイ外したから、私もヒールを脱ぐわ
【4】僕のプレイリストはタイムカプセル
【5】鳴らない風鈴
【6】切り分けられた林檎
【7】キャロルキングを聴きながら
【8】真冬のストローハット
【9】5年目のバレンタインデー
【10】セイントバレンタインデーの奇跡
【12】街角のバレンタインデー
【13】瞳の中のバレンタインデー
【14】バレンタインデー・ラプソディ
【15】ラストチャンス・バレンタインデー
【16】奇跡を呼んだナレーション
【17】コーヒーチケット1冊分の恋
【18】ハッピーエンドまでの君と僕とのセオリー
【19】ブロークンハート・イヴ
【20】グッドミュージックが生まれる街
【21】聖マルタンの夏
【22】ノン・アップデート・メモリーズ
【23】グッドバイ色の街だから
【24】雨の中のオレンジ
【25】君がヒロインになる瞬間(とき)
【26】シャッター音がくれた奇跡
【27】眠れない夜はニルソンを聴きながら
【28】リベンバーミー
【29】フォーマイセルフ&フォーユアセルフ
【30】ジョナサンがいた風景
【31】ファイナル・コンサート
【32】気分はアウトオブデート
【33】それぞれのダイアリー  
【34】あの頃君は駆け抜けて逝った  
【35】ミュージシャンたちの恋物語
【36】サマークリスマス
【37】ジーンズのある風景
【38】ゲバ字の消えた夏
【39】高校3年生のネアンデルタール人
【40】アルバート・ドッグを吹く風
【41】ワーズワースそして教授と私の旅
【42】天窓から眺めるロンドンの街
【43】チェスターの空の下
【44】ウクレレの音が流れる夏
【45】私は夢見るシャンソン人形
【46】いつか観たジョンレノン
【47】あの日聴いた夢のカリフォルニア
【48】懐かしいね、ガントレ!
【49】神楽坂で聴くサウンドオブサイレンス
【50】キャロルキングをお寺で
【51】サウンドトラックはユーミンで
【52】ルート66へに誘われて
【53】俺たちのジュークボックス
【54】キックオフは、これから!
【55】タイムカプセルからビートルズ
【56】2人のランナウェイ
【57】もうラヴソングは唄えない
【58】遅れて来たラヴレター
【59】君にとどけボーントゥーラン
【60】母はクラプトンが大好き
【61】タイムアフタータイムなんて
【62】シャーリーンの唄ですよね
【63】気分はハロー・グッドバイ
【64】クロスロードとオヤジたち
【65】サザンカンフォートを抱えた娘
【66】あなたがトミーで私がジーナ
【67】ロールプレイング・ラヴをあなたと
【68】パンタロンじゃなくベルボトムさ!
【69】俺は根っからのランブリング・マン
【70】タイムタイムタイム~冬の散歩道
【71】俺のロード・ソングは、ウィリン
【72】アメリカ《名前のない馬》から始まった
【73】ツェッペリンに包まれて
【74】ロイ・ブキャナンの流れる家
【75】フォークソングが消えた日
【76】終わらないメロディ
【77】俺もお前もストレンジャー
【78】ジョニ・ミッチェルで聴きたいね
【79】今さら、ハートに火をつけて
【80】アフリカを聴きながら
【81】プロコル・ハルムが唄っている
【82】ゼーガーとエバンズが教えてくれた
【83】ビタースウィート・サンバを取り戻せ
【84】ティアーズ・イン・ヘヴンなんて
【85】俺たちはフール・オン・ザ・ヒル
【86】このリフに魅せられて
【87】さらば黄昏のレンガ路よ
【88】心にハングリー・ハートを
【89】いつもジャーニーが流れていた
【90】ジャニスと踊ろう
【91】俺は今でも25or6to4
【92】君に捧げるララバイ
【93】ジャニスが語りかけた夜
【94】キリング・ミー・ソフトリーをあなたに
【95】恋をするならシェイクスピアで
【96】ゲーテが教えてくれた愛のシーズン
【97】僕と君だけのファーザー・クリスマス
【98】恋する気分は、ヴェルレーヌから
【99】愛を語るならヴェッキオ橋で
【100】ショーシャンクの空が・・・
【101】ビーハイブ・ヘアの女(ひと)
【102】カセットから流れ出たメロディ
【103】オヤジたちのスタンドバイミー
【104】届かない、君へのラブソング
【105】マージー・ビートに魅せられて
【106】父のギターが残してくれたもの
【107】夜のパリ、それはラヴレターの香り
【108】閉ざされたままのギターケース
【109】雨の日には、グラント・グリーンでも
【110】ボースサイドナウが流れる喫茶店で
【111】恋のリフレイン
【112】ベイビーが流れていた季節
【113】フォロー・ミーに誘われて
【114】それでも、あなたにラヴソングを
【115】想い出のコンサート・チケット
【116】スターダストをあなたと
【117】ナローボートで素敵な恋を!
【118】ライトハウスで出逢った、あなたへ
【119】レモンの木の下で
【120】2度目のチャイルドフッドフレンド
【121】ミニシアターより愛を込めて
【122】あの時YESと言えていたなら
【123】ソリチュードに包まれて
【124】窓辺のロミオ&ジュリエット
【125】フラに恋する君に恋した僕
【126】ミルキーウェイで、さよならを
【127】コイントスで決めた恋
【128】二人の恋はメリーゴーランド
【129】スラッキー・ギターに魅せられて
【130】ソー・ファー・アウェイが流れる街
【131】メッセージノートのある喫茶店
【132】恋のワン・ウェイ・チケット
【133】ベルベッド色の恋
【134】神楽坂ラヴ・ストーリー
【135】すれ違いのスウィート・ハート
【136】リッスン・ツー・ザ・レイディオ
【137】夏のレムナント
【138】ダウンタウンボーイ
【139】中央フリーウェイ
【140】AVALON
【141】フォーカス
【142】Midnight Scarecrow
【143】セシルの週末
【144】街角のペシミスト
【145】ジャコビニ彗星の日
【146】ツバメのように
【147】ダイヤモンドダストが消えぬまに
【148】イチゴ白書をもう一度
【149】ベルベッドイースター


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 長編集(原稿用紙300枚~450枚)1作500円

【1】校内放送でビートルズ
【2】府立第14中~青春グラフィティ!
【3】そうだドルフィンへ行こう
【4】夜のグラフィティ
【5】もう一度聴いてみようかホテルカリフォルニア 
【6】今何故、500マイルも離れて
【7】坊っちゃん、フォーエバー
【8】ブローイングインザウィンドでも聴いてごらん
【9】木登り~タイムワープ


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 短編集(原稿用紙~50枚)1作100円

【1】夜空と波間の彼方に
【2】深大寺ラヴストーリー 
【3】ダブルレインボーの彼方に
【4】真冬のウインド・チャイム 
【5】ギターケースの中のラヴレター 
【6】横浜ロックンローラー 
【7】遅れて来たフラワーチルドレン 
【8】阿波人形浄瑠璃ラブソディ
【9】真っ赤なマニュキアの指先を見つめた夏
【10】君がいた街角
【11】聴かせてよ、あのリフを!
【12】ワイパーの向こうで消えた女性(ひと)
【13】さよなら、ミュージシャン
【14】ボーカルインストラクターの夢追い人
【15】写譜屋の恋物語
【16】スポットライト・グラフィティ
【17】リペアマン・ブルース
【18】歌えないラヴソング
【19】夢捨て人のハーモニー
【20】君の名前が消えたエンドロール
【21】ユア・シックスティーン
【22】ピアノのある喫茶店
【23】旅人からのリクエスト
【24】君への恋心をアップデート
【25】トラックドライバーの独り言
【26】サリンジャーを手にした君へ
【27】ハイタッチなんて似合わない
【28】君の知らないイエスタデイ
【29】君へ送るハートビート
【30】エルトンからの贈物
【31】君に聴かせたいメロディ
【32】31文字のラヴレター
【33】48時間のランナウェイ
【34】君が遺した風景だから
【35】恋のロングバケーション
【36】私の彼はトラベラー
【37】ミュージシャンからの恋文
【38】さよならグッドメモリー
【39】恋のスターティンググリッド
【40】横浜バイザシー
【41】冷たい雨が好きだから
【42】街角ピアノ物語
【43】キネマのある街
【44】本日限りが好きだから
【45】この曲にはフルートが必要だから
【46】テイク・ミー・アロング
【47】3年越しのデスティニー
【48】あの日の君の肖像画
【49】奇跡のハーモニー
【50】ポートレイトの君は誰なの?
【51】雪降る街でサヨナラを
【52】永遠のチャイルドフッド・フレンド
【53】ミルキーウェイって何色?
【54】フラガールのいた夏
【55】消えないグラフィティ
【56】ドルフィンに連れてって
【57】校内放送なんて聴かないよ
【58】ジュークボックスのある風景
【59】君と僕とのタイムカプセル


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