オリジナル小説 【キリング・ミー・ソフトリーをあなたに】(第3回) | 《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ贈る小説》間々田陽紀の世界

■好きな音楽、好きな映画、好きなサッカー、好きなモータースポーツなどをちりばめながら、気ままに小説(244作品)・作詞(506作品)を創作しています。ブログも創作も《Evergreen》な風景を描ければと思っています。

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『済みませんがコーヒーを頂けますか?』
『ブレンドでいいかな?』
『はい、お願いします』

そう言いながら早稲田通りに面した窓側のボックス席に、武史は腰掛けた。外の窓辺に吊るされていたプランターに可憐なクリスマスローズの花が咲いていた。白い花に柔らかな陽射しが差し込んでいる。その陽射しは店の中にも届いていて、武史の目の前の木製のテーブルの細かな傷を浮かび上がらせていた。思わず武史はボディバッグの中からニコンFM10を取り出した。

『済みません、このテーブルを撮ってもいいですか?』
武史は増川さんに声を掛けた。
『いいですとも!』
増川さんは快く武史の申出を聞き入れてくれた。早速武史は手にしていたニコンFM10を構えて、テーブルにピントを合わせた。狭いボックス内を少しずつ動きながら、どのアングルでシャッターを押すか武史はあれこれ考えていた。

『はい、どうぞ!』
武史はどのアングルでシャッターを押すか夢中になっていたので、増川さんが目の前にコーヒーを持ってきていたことに全く気が付かなかった。
『フィルムカメラのニコンFM10なんて、若いのに随分と懐かしいカメラを使っていますね』
増川さんから武史は声を掛けられた。

『このカメラ、昨年亡くなった祖父から譲り受けたものです』
『お祖父さんは残念でしたね。失礼ですが、お幾つだったのでしょう?』
『ちょうど、90歳でした』
『なるほど、ということはこのカメラが確か1995年に発売されていますから、お祖父さんは70歳くらいの時にこのカメラを手にしたのですね』

『確かに祖父もそう申していました。自分は初めてフィルムカメラを手にしましたので、基本的なことをこの講座で学びたいと思いまして・・・』
そう言いながら手にしていたパンフレット兼申込書を武史は開いた。
『そんな事情でしたら、少しだけ内容についてお話ししましょうか?』
『いいですか?ぜひお願いします』

増川さんは、武史の反対側の席に座って説明をし始めてくれた。
『この講座は特に初心者にはぴったりだと思いますよ。専門学校みたいに長期間に渡ることはありません。1回限りもありますし、最大でも5回で終了と言う基本入門講座が用意されています。まずはそこから初めて、気に入ったら次の上級レベルの講座を受講したらいいと思いますよ』
正直1回の受講料が3000円で最大の5回でも受講料が15000円だったのは、武史にとっては有り難かった。

『とても有意義な講座のように思えます。おっしゃる通り最初は、この基本入門講座を受講してみたいと思います』
その場で武史は5回の基本入門講座への参加を決めた。
『もしよかったらあなたも写真を撮る様になったら、2階の写真ギャラリーの奥に暗室も用意してありので使って下さい。出来ればその時に作品を見せて頂ければ、楽しみなのですがね』
『もし、そのような機会がありましたら、ぜひ使わせて頂きたいと思います。今日は色々とありがとうございました』

そう言い終わるとコーヒー代金を精算して、武史は店を出て行った。シャッセに乗って緩やかな神楽坂の坂を下って行くと、武史はいつもと違った解放感に包まれている自分に気付かされていた。

下宿に戻った武史は、パソコンを起ち上げてYouYubeでロバータ・フラッグの《♪やさしく歌って》を再生した。ある人の行為がこれほどまで周囲に強い想いを伝えることが出来るのが、人を愛すると言う事なのだろうか。あまりにも素敵なラブソングだったので、どうにも自分には縁の無い歌だと武史はぼんやりと考えた。

それにしても亡くなった祖父ちゃんは生きている時も色々と武史のことを気づかってくれていたが、亡くなった後も愛用のニコンFM10を通して武史に意味のあるメッセージを送ってくれていたように思われた。正直大学を卒業して何もやりたい事が見つからないままでいた武史にとって、漠然とした将来に対しての不安が無かったかと言えば嘘になる。

大学を卒業して普通に就職しないことが、一体どれほどの不都合があると言うのだろうか。大学卒業後の武史はずっと自問自答していた。何も社会全体から拒否された訳でもあるまいし、もっと余裕を持ってゆっくりと歩いて行けばいいと武史は自分自身に言い聞かせていた。

そしていつもある結論に武史は辿り着いていた。どんなに今不安な気持ちが吹っ切れなくても、確かな事が一つだけあった。それは生まれて初めて武史が自分のやりたい事に向かって進んでいると言う自覚だった。大学時代までの武史は自分でははっきりと意識しなくても、常に周囲の目線などを何処かで意識していた。

そんな言いようの無い理不尽な拘束力から、今武史は抜け出そうとしていた。今の武史はどんな小さなことでもいいから自分のやりたいと思っているところで、何らかの達成感というか成功感を手にしてみたいと考えていた。


表紙

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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 中編集(原稿用紙90~100枚)1作250円

【1】Tシャツとピンクの万年筆
【2】リバプールの旅人
【3】あなたがネクタイ外したから、私もヒールを脱ぐわ
【4】僕のプレイリストはタイムカプセル
【5】鳴らない風鈴
【6】切り分けられた林檎
【7】キャロルキングを聴きながら
【8】真冬のストローハット
【9】5年目のバレンタインデー
【10】セイントバレンタインデーの奇跡
【12】街角のバレンタインデー
【13】瞳の中のバレンタインデー
【14】バレンタインデー・ラプソディ
【15】ラストチャンス・バレンタインデー
【16】奇跡を呼んだナレーション
【17】コーヒーチケット1冊分の恋
【18】ハッピーエンドまでの君と僕とのセオリー
【19】ブロークンハート・イヴ
【20】グッドミュージックが生まれる街
【21】聖マルタンの夏
【22】ノン・アップデート・メモリーズ
【23】グッドバイ色の街だから
【24】雨の中のオレンジ
【25】君がヒロインになる瞬間(とき)
【26】シャッター音がくれた奇跡
【27】眠れない夜はニルソンを聴きながら
【28】リベンバーミー
【29】フォーマイセルフ&フォーユアセルフ
【30】ジョナサンがいた風景
【31】ファイナル・コンサート
【32】気分はアウトオブデート
【33】それぞれのダイアリー  
【34】あの頃君は駆け抜けて逝った  
【35】ミュージシャンたちの恋物語
【36】サマークリスマス
【37】ジーンズのある風景
【38】ゲバ字の消えた夏
【39】高校3年生のネアンデルタール人
【40】アルバート・ドッグを吹く風
【41】ワーズワースそして教授と私の旅
【42】天窓から眺めるロンドンの街
【43】チェスターの空の下
【44】ウクレレの音が流れる夏
【45】私は夢見るシャンソン人形
【46】いつか観たジョンレノン
【47】あの日聴いた夢のカリフォルニア
【48】懐かしいね、ガントレ!
【49】神楽坂で聴くサウンドオブサイレンス
【50】キャロルキングをお寺で
【51】サウンドトラックはユーミンで
【52】ルート66へに誘われて
【53】俺たちのジュークボックス
【54】キックオフは、これから!
【55】タイムカプセルからビートルズ
【56】2人のランナウェイ
【57】もうラヴソングは唄えない
【58】遅れて来たラヴレター
【59】君にとどけボーントゥーラン
【60】母はクラプトンが大好き
【61】タイムアフタータイムなんて
【62】シャーリーンの唄ですよね
【63】気分はハロー・グッドバイ
【64】クロスロードとオヤジたち
【65】サザンカンフォートを抱えた娘
【66】あなたがトミーで私がジーナ
【67】ロールプレイング・ラヴをあなたと
【68】パンタロンじゃなくベルボトムさ!
【69】俺は根っからのランブリング・マン
【70】タイムタイムタイム~冬の散歩道
【71】俺のロード・ソングは、ウィリン
【72】アメリカ《名前のない馬》から始まった
【73】ツェッペリンに包まれて
【74】ロイ・ブキャナンの流れる家
【75】フォークソングが消えた日
【76】終わらないメロディ
【77】俺もお前もストレンジャー
【78】ジョニ・ミッチェルで聴きたいね
【79】今さら、ハートに火をつけて
【80】アフリカを聴きながら
【81】プロコル・ハルムが唄っている
【82】ゼーガーとエバンズが教えてくれた
【83】ビタースウィート・サンバを取り戻せ
【84】ティアーズ・イン・ヘヴンなんて
【85】俺たちはフール・オン・ザ・ヒル
【86】このリフに魅せられて
【87】さらば黄昏のレンガ路よ
【88】心にハングリー・ハートを
【89】いつもジャーニーが流れていた
【90】ジャニスと踊ろう
【91】俺は今でも25or6to4
【92】君に捧げるララバイ
【93】ジャニスが語りかけた夜
【94】キリング・ミー・ソフトリーをあなたに
【95】恋をするならシェイクスピアで
【96】ゲーテが教えてくれた愛のシーズン
【97】僕と君だけのファーザー・クリスマス
【98】恋する気分は、ヴェルレーヌから
【99】愛を語るならヴェッキオ橋で
【100】ショーシャンクの空が・・・
【101】ビーハイブ・ヘアの女(ひと)
【102】カセットから流れ出たメロディ
【103】オヤジたちのスタンドバイミー
【104】届かない、君へのラブソング
【105】マージー・ビートに魅せられて
【106】父のギターが残してくれたもの
【107】夜のパリ、それはラヴレターの香り
【108】閉ざされたままのギターケース
【109】雨の日には、グラント・グリーンでも
【110】ボースサイドナウが流れる喫茶店で
【111】恋のリフレイン
【112】ベイビーが流れていた季節
【113】フォロー・ミーに誘われて
【114】それでも、あなたにラヴソングを
【115】想い出のコンサート・チケット
【116】スターダストをあなたと
【117】ナローボートで素敵な恋を!
【118】ライトハウスで出逢った、あなたへ
【119】レモンの木の下で
【120】2度目のチャイルドフッドフレンド
【121】ミニシアターより愛を込めて
【122】あの時YESと言えていたなら
【123】ソリチュードに包まれて
【124】窓辺のロミオ&ジュリエット
【125】フラに恋する君に恋した僕
【126】ミルキーウェイで、さよならを
【127】コイントスで決めた恋
【128】二人の恋はメリーゴーランド
【129】スラッキー・ギターに魅せられて
【130】ソー・ファー・アウェイが流れる街
【131】メッセージノートのある喫茶店
【132】恋のワン・ウェイ・チケット
【133】ベルベッド色の恋
【134】神楽坂ラヴ・ストーリー
【135】すれ違いのスウィート・ハート
【136】リッスン・ツー・ザ・レイディオ
【137】夏のレムナント
【138】ダウンタウンボーイ
【139】中央フリーウェイ
【140】AVALON
【141】フォーカス
【142】Midnight Scarecrow
【143】セシルの週末
【144】街角のペシミスト
【145】ジャコビニ彗星の日
【146】ツバメのように
【147】ダイヤモンドダストが消えぬまに
【148】イチゴ白書をもう一度
【149】ベルベッドイースター


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 長編集(原稿用紙300枚~450枚)1作500円

【1】校内放送でビートルズ
【2】府立第14中~青春グラフィティ!
【3】そうだドルフィンへ行こう
【4】夜のグラフィティ
【5】もう一度聴いてみようかホテルカリフォルニア 
【6】今何故、500マイルも離れて
【7】坊っちゃん、フォーエバー
【8】ブローイングインザウィンドでも聴いてごらん
【9】木登り~タイムワープ


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■レーベル《遠い昔、深夜放送が好きだった人たちへ》間々田陽紀 小説の世界~シリーズ 間々田 陽紀 短編集(原稿用紙~50枚)1作100円

【1】夜空と波間の彼方に
【2】深大寺ラヴストーリー 
【3】ダブルレインボーの彼方に
【4】真冬のウインド・チャイム 
【5】ギターケースの中のラヴレター 
【6】横浜ロックンローラー 
【7】遅れて来たフラワーチルドレン 
【8】阿波人形浄瑠璃ラブソディ
【9】真っ赤なマニュキアの指先を見つめた夏
【10】君がいた街角
【11】聴かせてよ、あのリフを!
【12】ワイパーの向こうで消えた女性(ひと)
【13】さよなら、ミュージシャン
【14】ボーカルインストラクターの夢追い人
【15】写譜屋の恋物語
【16】スポットライト・グラフィティ
【17】リペアマン・ブルース
【18】歌えないラヴソング
【19】夢捨て人のハーモニー
【20】君の名前が消えたエンドロール
【21】ユア・シックスティーン
【22】ピアノのある喫茶店
【23】旅人からのリクエスト
【24】君への恋心をアップデート
【25】トラックドライバーの独り言
【26】サリンジャーを手にした君へ
【27】ハイタッチなんて似合わない
【28】君の知らないイエスタデイ
【29】君へ送るハートビート
【30】エルトンからの贈物
【31】君に聴かせたいメロディ
【32】31文字のラヴレター
【33】48時間のランナウェイ
【34】君が遺した風景だから
【35】恋のロングバケーション
【36】私の彼はトラベラー
【37】ミュージシャンからの恋文
【38】さよならグッドメモリー
【39】恋のスターティンググリッド
【40】横浜バイザシー
【41】冷たい雨が好きだから
【42】街角ピアノ物語
【43】キネマのある街
【44】本日限りが好きだから
【45】この曲にはフルートが必要だから
【46】テイク・ミー・アロング
【47】3年越しのデスティニー
【48】あの日の君の肖像画
【49】奇跡のハーモニー
【50】ポートレイトの君は誰なの?
【51】雪降る街でサヨナラを
【52】永遠のチャイルドフッド・フレンド
【53】ミルキーウェイって何色?


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