「義経千本桜」に因んだ芝居小唄です。
三段目「釣瓶鮨屋」の場での、鮨屋を営む弥左衛門の元に下男で弥助と改名して身を隠している平維盛と、弥左衛門の娘お里との叶わぬ恋を唄っています。
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義太夫の聴かせ処を多く採り込んでいます。
解釈:「三吉野」は御吉野と同じで吉野の美称です。
「色珍しい~蝶一つ」は、草中の吉野の里に珍しくも蝶一つ(平維盛)が迷い込んだという意味です。
「鮎(アイ)に愛持つ鮨桶の しめた固めた二世の縁」は、鮎の鮨を押さえ締めて固めるように、愛をしっかり固めた二世の縁(夫婦の約束)ということです。
「二つ枕の花」は同衾の楽しさを言っています。
「義経千本桜」は、歌舞伎の三代名作の一つで、源頼朝に追われた義経の流転を軸とした物語です。
三段目「釣瓶鮨屋」は、釣瓶鮨(つるべずし)を営む弥左衛門の元に身を隠している平家の勇将・平維盛をめぐり、夫婦や親子の情愛、忠義の死が描かれています。
この「鮨屋」の舞台は秋も深まる奈良です。
小唄備忘録500番―その178「三吉野(鮨屋)(2分42秒)
高谷伸作詞 里園志寿恵作曲
写真は令和四年(2022)国立劇場「義経千本桜 鮨屋の段」(国立劇場H/Pより)。
画は「俳優似顔錦絵」(安政三年)「すし屋娘おさと・弥助実はこれ盛」(国立国会図書館デジタルコレクション)
なお、840年ほど前に創業した「釣瓶鮨」のモデルとなった店は、現在も続いており当主が代々弥助と名乗っています。鮨を「ヤスケ」というのはここから来ていると言われています。
また、維盛が弥助と改名し、弥左衛門の弟子となった日が11月1日、そして新米の季節であり、ネタになる海や山の幸が美味しい時期であることから、1961年(昭和36年)に、この日が「すしの日」に制定されました。