現在パレスチナ問題への入門書を準備中です。これは、その草稿です


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第一部 歴史


シオニズムと三つの風前回 のつづき)


それでは、民族とは何だろ うか。これは共通の祖先を持ち、運命を共有していると考える人々の集団である。ドイツ人、フランス人、ロシア人、イタリア人、スペイン人などが、この民族という単位に当たる。これは客観的な基準によって成立するのではなく、あくまで集団の構成員の思い込みで決まる。同じ言葉を話したり、同じ宗教を信じていれば、この思い込みは容易になる。こうした民族主義が高まってくると、多数派のキリスト教徒は、少数派のユダヤ教徒を排除する傾向が強まった。ユダヤ人を同じ民族として受け入れようとはしなかった。宗教が違うからである。こうした流れの中でユダヤ人に対する迫害が高まった。


ユダヤ人が民族の国家のメンバーとして認められないならば、のけ者にされた自分たちだけの国を作ろう。そうすれば、そこではユダヤ教徒という宗教の違いゆえの差別は存在しなくなる。シオニズムを生み出した考え方である。


しかし考えてみれば、不思議な考えである。すでに人々が住んでいる土地にヨーロッパ人が移り住んで新しい国を作ろうといのである。前から住んでいた人々の希望などは、そこでは真剣に考慮されていない。なぜ、こうした発想が出てきたのだろうか。それは19世紀末が民族主義の時代であると同時に帝国主義の時代であったからである。帝国主義というのはヨーロッパの大国が、またアメリカが、アジア、アフリカ、ラテン・アメリカを自分たちの都合だけで自由に分割し、支配する構造をさす。この時期においてヨーロッパやアメリカの人々は、勝手に世界を動かしていた。こうした時代の発想であるからこそ、現地の人々の意向を無視してのパレスチナでのユダヤ人の国家建設が始まった。シオニズムをあおった第二の風は、帝国主義であった。


>>次回 につづく