現在パレスチナ問題への入門書を準備中です。これは、その草稿です


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第一部 歴史


シオニズムと三つの風前回 のつづき)


それでは問題は、いつごろに起こり、何が問題なのであろうか。誰が何を争っているのだろうか。パレスチナの地で現在にまで続く問題が起こり始めたのは、19世紀末である。ヨーロッパのユダヤ人たちが、パレスチナに移り始めた。自分たちの国を作るためにである。


ユダヤ人たちの自分たちの国を作ろうとの運動をシオニズムと呼ぶ。これはシオン山のシオンとイズムを合わせた言葉である。シオン山というのはパレスチナの中心都市のエルサレムの別名である。エルサレムは標高300メートルほどの丘の上に建てられている。イズムとは、主義という意味の言葉である。主義というのは、ある政治的考えのための努力である。


これは、つまり約120年の紛争である。ヨーロッパのユダヤ人がパレスチナに入ってくると、その土地にすでに生活していたパレスチナ人との間に紛争が始まった。これが現在まで続くパレスチナ問題の発端である。それでは、なぜヨーロッパのユダヤ人たちは、この時期にパレスチナへの移住を考えるようになったのだろうか。それはヨーロッパで19世紀の末になってユダヤ人に対する迫害が激しくなったからである。それは、どうしてであろうか。


答えは、この時期にヨーロッパに民族主義が広まったからである。この民族主義がユダヤ人の迫害を引き起こした。それでは、この民族主義というのは、何だろうか。民族主義とは次のような考え方である。

  1. 人類というのは民族という単位に分類できる。
  2. それぞれの民族が独自の国家を持つべきである。
    これを民族自決の原則と呼ぶ。
  3. 個人は、属する民族の発展のために貢献すべきである。

こうした考えによれば、個人の最高の生き方は、自らの民族の国家のために尽くすことであり、自らの民族が国家を持っていない場合は、その独立のために働くことである。そして、この考え方に取り付かれた人々は、民族のため国家のために大きな犠牲をいとわない。ときには命さえもささげる。お国のために死ぬという行為が、民族主義では最高の栄誉とされる。



>>次回 につづく