バイデンの再選に暗雲

 

この戦争が米国の大統領選挙に与える影響についても触れておきます。昨年10月、民主党内のジョー・バイデン大統領への支持率が、前月に比べ11%も下がった。ガザで始まった戦争で、イスラエルを支持したためと考えられます。とくにネットで激しい爆撃や子どもが亡くなる動画などを見ている若い世代は、パレスチナ寄りの傾向が強い。民主党全体で見ても、戦争が始まる以前はイスラエル支持が多数で、パレスチナを支持するのは、バーニー・サンダースに票を入れるような人たちに限られていましたが、いまではパレスチナ支持の方が上回っています。

 

よって今後、パレスチナ寄りの政策をとらないとバイデンは票をとれない。とくにバイデンにうんざりしている若者たちは、次の大統領選の際、共和党候補の最有力であるドナルド・トランプに入れることはないかもしれないけれど、「家でフットボール観ていようか」とか「テレビの前でごろ寝してようか」といった選択をする可能性が高い。

 

さらに米国内のイスラム教徒は本当に頭に来ていて、バイデンが「イスラム教徒の代表に会いたい」と言っても誰も会おうとしない。イスラム教徒の間では、「絶対バイデンに入れない」という運動も始まっている。米国における中東ルーツの人の割合は決して高くないけれど、「スイングステート」と呼ばれる激戦区の一つ、ミシガン州には、3%いて、この人たちの動向次第で、バイデンは、前回選挙で辛勝したミシガンを落とす確率があります。ミシガン以外のスイングステートも、現在のところトランプが優勢。すでにバイデン大統領の再選には、黄信号が灯っています。

 

戦闘が拡大すれば日本経済は終わり

 

最後に、この戦争の中東全体への波及という点についてお話しします。いま、レバノンで活動するシーア派の武装組織、ヒズボラーが、イスラエルと小競り合いをやっていますが、これは「やってる感」を出しているだけで、イスラエルとハマスの戦いに参戦したいとは思っていない。ただ、ヒズボラーは強力な軍事力を有しています。イスラエルとハマスが大リーグとリトルリーグくらいだとすると、ヒズボラーは日本のプロ野球並み。ミサイルを15万発くらい持っている。ハマスにもミサイルはありますが、遠くに飛ばないし、飛ぶのがあっても誘導弾ではない。ヒズボラーのは遠くまで飛ぶし、すべて誘導装置がついている。イスラエルは、「もしヒズボラーが参戦すれば、レバノンもガザと同じように徹底的に爆撃する」と言ってますが、そうなったらヒズボラーも確実にイスラエルの石油タンクや飛行場、原発施設、核燃料施設を攻撃するでしょう。そうなれば世界規模の大惨事は避けられない。

 

だから、私はヒズボラーが参戦するのではないかとヒヤヒヤしていましたが、最近はそれよりも、イスラエルが「イラクがバックにいるヒズボラーとはいつか戦わなくちゃいけない。ならいまでしょ」と先制攻撃に出るのを心配しています。イスラエルは現在、予備役を動員して50万人の兵がいますし、レバノン国境の住民は南部に避難しているので、やるのなら確かにいまが絶好のチャンスともいえます。

 

もう一つ、中東でイスラエルと戦っているのが、イエメン南部のフーシー派と呼ばれる人たちです。フーシー派は、パレスチナ支援を表明し、紅海の南出口にあるバブ・エル・マンデブ海峡を通るイスラエル関係の船舶を攻撃しています。このため米国と英国は、航行の自由を守るため、フーシー派の軍事拠点に攻撃を開始しました。

 

イエメンでは、毎週、100万人規模のパレスチナ支援デモが行われるくらい、パレスチナへの同情心が強い。そのため、パレスチナ人のために立ち上がったフーシー派は、反政府組織にもかかわらず、イエメン国内での評判がうなぎ上りで、しかもにっくき米国と戦っているということでますます人気が高まっています。

 

フーシー派もたくさんミサイルを持っているのですが、ハマスと同じく地下に隠しているので、米軍が爆撃しても十分耐えられる。よって戦闘は今後も続くと考えられます。

 

いまは、ヒズボラーとフーシー派の動きだけですが、今後、米・イスラエルとイランが衝突するようなことにでもなれば、紅海軽油の輸送がストップするだけでなく、ペルシャ湾が閉じる可能性もあります。そうなったら日本経済は終わりでしょう。日本の中東原油輸入依存率は、70年代のオイルショックのとき7割くらいでしたが、現在は9割をこえています。しかもオイルショックのころは、アラブ諸国が半分、イランが半分でしたが、近年、日本は米国に遠慮してイランから石油を買っていない。ほとんどがサウジアラビアとかアラブ首長国連合からです。50年前、あれだけ苦労したのに、なぜ中東原油への依存率が下がってないのか。経済産業省は、なにやってきたんでしょうか。そしてなぜみんな、もっと心配しないのでしょう?とても不思議ですね。

 

-了-

すでにハマスの目的は達成した?

 

イスラエルは、これまでハマスのことを、「政治的に使えるから生かさず殺さず、うまく飼っとけばいい」と考えていた。実際、ハマスとイスラエルの戦闘は、これまで4回ありましたが、イスラエル側の犠牲者はすべて兵士で、数も多くはなかったので問題にならなかった。ところが今回は民間人含め約1200人が殺され、約3000人が負傷、200人以上が人質にとられた。しかも戦場となったのは自国内です。イスラエルにとって衝撃はとてつもなく大きかった。それで、もう根絶やしにするしかないということになったのですね。イスラエルは、「ハマスを絶滅させる」というスローガンを掲げ、これまでに6万5000トンの爆弾をガザへ投下したといわれています。これは広島と長崎の原爆を合わせたものの1・5倍以上に相当します。

 

その結果、これまでに2万7000人以上の人が殺されました。これはガザの人口の1%以上です。子どもは12分に1人の割合で命を落としている。イスラエル側は、この数字を「ハマスの保健省が出している数字に過ぎない」と強弁していますが、NHKまでがそれを踏まえて「ハマスが実行支配しているガザで、ガザの保健省によれば…」と報道している。「自民党が実効支配している東京の厚労省によれば…」なんて言わないでしょ。本当に頭に来ますね。

 

ただ、それだけ軍事力で圧倒的に勝るイスラエルですが、順調にことが進んでいるわけではない。10月に戦争が始まったとき、イスラエルの軍関係者は「大規模な戦争になるので、2ヶ月程度はかかる」と言っていましたが、すでに3ヶ月になります。予想以上に時間を要している。確かに海でも空でも地上でも勝ってるけれど、地下ではハマスに苦戦しているのです。ハマスが作った地下トンネルは総延長500キロと言われています。ロンドンの地下鉄の総延長が400キロ、東京の地下鉄が300キロですからどれだけ巨大な要塞か分かると思います。

 

ハマスからすると、すでに自分たちは勝ったと思っているかもしれません。なぜなら、この何年か、中東のアラブ諸国は、「パレスチナ人は放っておいてイスラエルとの関係を改善していけばよい」という路線で動いていたわけですが、今回の衝突によってその路線を進めるのは困難になった。また、これまで「イスラエルはホロコーストを経験した気の毒なユダヤ人たちが苦労して作った国なのだから守ってあげないといけない」と同情する声が大きかったけれど、この間、悲惨な映像を毎日見せられ、イスラエルを支持できないと思う人たちが世界中で増えてきている。

 

一方、米国のバイデン政権は、ヨルダン川西岸にいるパレスチナ暫定自治政府にもう1度ガザを統治させ、「統一政府」としてイスラエルと交渉させようとしてる。描いているのは、あらためてパレスチナ国家を樹立し、平和的に着地させるとい言う道筋です。しかし、ベンミヤン・ネタニヤフ首相は、統一政権と交渉などしたくないので、この方針に反対している。こうした米国とイスラエルの対立があることも認識しておくべきでしょう。

 

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実態を表していない地図

 

ハマスが攻撃を仕掛けた理由について、米国政府や多くの専門家は、「イスラエルとサウジアラビアの交渉が急展開し、サウジを中心にアラブ諸国がみなパレスチナのことを忘れ、イスラエルと仲良くしようとしていたから、ハマスはそれを止めようとしたのだろう」と分析しています。この見解は辻褄が合っているようにも思えますが、私は時系列的に見て、違うと考えています。

 

あらためてパレスチナの状況を概観すると、ガザは封鎖され、ヨルダン川西岸地区ではイスラエルがどんどん入植地を増やし、パレスチナ人を殺している。さらにイスラム教にとって大切なエルサレムのアル=アクサ・モスクに、イスラエル人が土足で入って汚している。ハマスはこれらを一掃し、リセットしようと考えたのではないでしょうか。それは、攻撃の作戦名である「アル=アクサの洪水」からも伺い知ることができます。洪水とは「ノアの方舟」の伝説からとっています。世の中が乱れて、罪人が増えたときに神さまが洪水を起こして人類を滅ぼし、正義の人たちだけが生き残るという話は、新約・旧約聖書だけでなくコーランにもあり、中東地域では昔からよく知られています。

 

なお、10月7日という日にも理由があります。50年前の73年10月6日、エジプトとシリアがイスラエルに奇襲攻撃をかけて大打撃を与えました。ハマスは、その記念すべき50年目の日プラス1日目のユダヤ教の安息日である土曜日を狙ったんだと思われます。

 

ずっと中東は平穏だと思われていて、そこに突然、武力衝突が勃発したので、多くの人々は、納得できる理由を探して、「あっ、サウジとイスラエルの交渉が原因だ」と思ったのでしょうが、そうではない。メディアの報道にも問題があったと思います。93年のオスロ合意があり、いまもそれが基本となってパレスチナ情勢が動いているという幻想にとらわれていた。ただ、ある意味でそうした誤解が生まれるのも無理はありません。

 

 

外務省のホームページに載っているパレスチナの地図を見ると、一色で塗られ、その地を自治政府が支配していることになっていますが、実際は、ヨルダン川西岸地区の多くはイスラエルに支配されています。パレスチナ自治政府が本当に支配しているのは、ほんのわずかです。人々は自治区内を移動しようとしても、検問所がたくさんあって、簡単に目的地には行けません。お腹の大きなお母さんが「病院に行きたい」と言っても、「おばあちゃんが死にそうだからお見舞いに行く」「試験だから学校に行かなくてはならない」と言っても、「今日は行かなくていい」と追い返される。本当にメチャメチャなんですね。

 

だから僕はテレビ出るたびに、外務省の人にホームページの地図を実態に即したものに変えるようお願いしています。それがこの間、僕のやってきた“ジハード”です。

 

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