高橋和夫の国際政治ブログ

【テレビ出演のご案内】

12月26日(土)午前9時半~午後1時
大阪ABCテレビ『正義の見方!スペシャル』


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12月29日(火)早朝

TBSラジオ『伊集院光とらじおと』


2021年1月2日(祝・土)15時05分~16時55分
NHKラジオ「2021新型コロナと世界の進む道」(仮)

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アゼルバイジャンとアルメニアの衝突とイランの憂鬱

アゼルバイジャンとアルメニアがナゴルノ・カラバフという地域を巡って衝突している。そして両国と国境を接するイランは、これに頭を抱えている。アゼルバイジャンとアルメニアの衝突と書くと長いので勝手にアア衝突と略したい。


ソ連が崩壊した際に他の連邦の国々と同じようにアルメニアとアゼルバイジャンも独立した。その過程で、アゼルバイジャンの中にアルメニア人が多いナゴルノ・カラバフという地域が飛び地のように残った。


ソ連という1つの国の内部に両国が含まれていた際にも対立があった。2つの国に分かれてしまうと事態が、深刻化した。アルメニア側は武力に訴えてナゴルノ・カラバフを制圧した。しかも、この土地とアルメニアを結ぶ地帯も征服してしまった。ソ連崩壊後の1990年代の展開であった。アルメニア側の武力がアゼルバイジャン側を上まった結果だった。


そして、アルメニアは、この両地域から多くのアゼルバイジャン人を追放した。追われた人々はアゼルバイジャンの首都バクーの内外の難民収容施設で不自由な生活をしながら、故郷に帰る日を夢見てきた。これが大まかな状況だった。


さてアゼルバイジャンは石油と天然ガスに恵まれている。その豊富なエネルギー収入を投じて軍事力を育成してきた。特にイスラエルとトルコからの兵器の購入が目立っていた。そして9月にアア両国の間で軍事衝突が発生した。アゼルバイジャン側は、トルコ軍の支援を受けているようだ。しかもイスラエル製の最新のドローンなどで攻撃している。アルメニア側はスカッド・ミサイルで反撃している。


この衝突に両国と国境を接するイランは、苦慮している。というのはイランにはアゼルバイジャン系の人々もいるし、アルメニア人もいる。両国の対立はイラン国内での対立の引き金となりかねない。


イランは多民族国家でペルシア語のみを母語とする人々は人口の半分くらいである。他は少数民族ということになる。その中でも数も政治的な力も一番強いのがアゼルバイジャン系の人々である。イランではアーゼリーと呼ばれている。最高指導者のアリー・ハメネイも、その1人に数えられている。


また隣国のアゼルバイジャンにイスラエルの影響力が伸びて来るのはイランにとっては脅威である。イランが恐れているシナリオの1つはイスラエル空軍による攻撃である。核関連施設が狙われるのではないかとの懸念が長らく抱かれている。


救いはイランとイスラエルの距離である。イスラエルから重い爆弾を積んでイランを爆撃し帰国するのは、航続距離の問題からイスラエル空軍にとっても負担である。そこで帰りはイスラエルではなく、どこかイランの周辺国に着陸できれば、作戦はずっと容易になる。その候補の1つと噂されているのがアゼルバイジャンである。この国は独立後イスラエルとの関係を深めてきた。アゼルバイジャンとアルメニアのアア対立が、イランを憂鬱にさせている。


-了-


※『経済界』2021年1月号94ページ掲載

ラジオ出演のご案内-12/29(火)

12月29日(火)早朝

TBSラジオ『伊集院光とらじおと』

書評『緊急提言 パンデミック』ユヴァル・ノア・ハラリ 著

新型コロナウイルスの蔓延という現象と偉大な知性が衝突すると、どのような議論が出て来るだろうか。そうした知性の一人としてユヴァル・ノア・ハラリが数えられる。『サピエンス全史』などの世界的なベストセラーで知られるイスラエルの歴史家である。


パンデミックとハラリの出会いの結果が本書である。著者が世界の高級紙に寄稿した論考とNHKの道傳愛子キャスターとのインタビューを採録している。ハラリによれば、現在の危機への対応が人類の将来に大きな影響を与えるだろう。選び取るべきは自国優先主義の偏狭な民族主義ではなく、人類の連帯であり国際協力である。伝染を追跡するためのプライバシーを無視した監視の強化ではなく、プライバシーを尊重した対応だ。


こうした結論は妥当ではあるが、驚くべき提案ではない。だがハラリの議論には抗えないような説得力がある。それは、深い歴史の洞察に基づいているからだ。たとえばコロナ対策として国境を封鎖するなどのグローバル化への逆行は解決策ではないとする。なぜならば、中世のような人の往来の少なかった時代においてさえ、疫病が世界に広がり多くの命を奪ったからだ。歴史家ならではの指摘だ。


「皮下監視」というハラリの議論を紹介したい。これは時計のような器具を装着させれば、国民全員の体温や血圧や脈拍の動きを政府が監視できるようになる。パンデミックへの対策として有効そうだ。しかしそうしたデータに反映される人間の感情さえも政府が監視できるようになる。例を挙げれば、独裁者の演説に拍手を送っても内心では反感を覚えている。そうした感情を隠せなくなる。人々の外面的な行動ばかりでなく、内面までも監視できる社会が近づいていると警告する。


今回のパンデミックにおいてもプライバシーを尊重した対応の重要性が必要なゆえんである。このハラリという歴史家の射程には、過去ばかりでなく現在が、そして未来が入っている。読後に軽い悪寒に襲われた。


※『東京新聞』2020年11月21日号、『中日新聞』2020年11月22日号に掲載

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