![医学翻訳](https://stat.ameba.jp/user_images/20120210/18/t-honyaku/49/ac/p/t02200169_0300023011785701963.png?caw=800)
私達は必要なコレステロールの約80%を体内で作り、残り20%を食べ物から摂取していますが、それを上回って摂取すると、余分なコレステロールが体内に蓄積し、さまざまな病気が引き起こされます。体にはもともとコレステロール量を調節するしくみがありますが、血中コレステロール量の高い人は薬を用いてコレステロール量を下げることができ、なかでもスタチンと呼ばれる薬が最も広く使われています。実はこの薬、日本人研究者による「ケミカルバイオロジー」的研究によって生み出されたといっても過言ではありません。遠藤章によるスタチン系化合物ML-236B(コンパクチン)の発見はその後の種々のスタチン系薬剤の発見および開発に非常に大きな影響を与えました。またML-236Bは、コレステロール研究の発展にも大いに役立っています。米国のブラウンとゴールドシュタインが、ML-236Bを用いた研究から細胞におけるコレステロール量の調節機構を明らかにし、1985年にノーベル生理学・医学賞を受賞したのは有名です。
さらに、コレステロールが細胞の中のある決まった場所に存在することが大切だということがわかってきました。ニューマンピック病C型(NPC)という遺伝病では、細胞内に取り込まれたコレステロールが後期エンドソーム(late endosome)と呼ばれる特殊な細胞内小器官(organelle)に蓄積します。そして小脳失調などの中枢神経症状や肝脾腫が引き起こされます。理化学研究所の小林俊秀らは、ある化合物が後期エンドソームに存在する特殊な脂質と相互作用して、NPC患者の細胞で見られるコレステロールの蓄積を引き起こすことを発見しました。また逆にNPC細胞で生じるコレステロールの蓄積を解消するような化合物も見出されています。
このように化合物を使ってコレステロールの分布を調節する機構が明らかになれば、NPC病の治療法を探る一つの鍵となるでしょう。