精神分析的心理学/発達心理学:愛着と分離個体化、その1 by 心理学翻訳担当 Dr. 内野 | 高橋翻訳事務所スタッフリレーブログ

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精神分析的心理学/発達心理学:愛着と分離個体化、その1

(Psychoanalytic Psychology/ Developmental Psychology: Attachment and Separation-Individuation. vol.1) 



何度かにわたり愛着や分離についての研究をご紹介します。今回は様々な家族関係のひとつである母と子どもの愛着(attachment)について、特に子どもが産まれるまでの関係について書きます。子どもがどのように親(特に母親)との関係を作るかについての研究が過去に多くなされましたが、、ここでは母親が子どもに対してどのように関係を作っていくかにも焦点をあてながら文献をご紹介いたします。


女性は自分が大人になる前から自分の両親との関係(Lax, 2003)や文化の中での母親像(Kishida, 2001; Turrini & Mendell, 2003) などから母親として自分がどうありたいか、つまり母親としてのアイデンティティー(maternal identity)を構築していきます。おままごとなどで母親役をするのも母親としてのアイデンティティーが育っている証拠です。白人女性を中心(96%)としたアメリカでの80年代の研究によると、70% の女性が「完璧な母親となり簡単に子育てをする」というファンタジーを子どもを産む前に持っていました(Genevie and Margolies, 1987)


妊娠中は心配と希望の入り混じり(Lax, 2003; Rubin, 1984)、アメリカの白人女性では35%の回答者は妊娠経験をいいもの、残りの回答者はよくないもの、あるいは複雑な気持ちになる経験(negative or univalent experience)と答えています(Genevie & Margolies, 1987, p. 100).。妊娠をいい経験だったと答えた回答者はその理由として夫とのよい関係を挙げ、悪い経験と答えた回答者はその理由として計画外・希望に反した妊娠(unplanned and/or unwanted pregnancy)、夫との関係の悪化、体型の変化、鬱、生まれている子どもが不健康である不安などを挙げています。また、子どもとひとつになりたいという欲求 (Rubin, 1984) や子どもが身体的にも精神的にも自分のためだけに存在するというファンタジーを持つ場合もあります(Lax, 2003)


女性の幼少期の母親としてのイメージやファンタジーも妊娠中に戻ってくる場合があります(Lax, 2003)。母親としてのイメージはもちろん、いいものも悪いものもあります。そして母親のおなかの子どもに対する思い入れも誕生前から意識的にも、無意識にも行われます。例えば両親との関係にこじれがある場合、そのこじれが誕生前から子どもとの関係に反映されたり、一人目の子どもが亡くなった場合、次に生まれる子どもが誕生前から一人目の子どもの代わりとして見られるのもその例です(Okonogi, 1991)


子どもの誕生後も、母親が子どもをどう見るかにより母親から子どもへの関係の仕方が変わってきます(Lax, 2003)。例えば、子どもを自分の延長、親からのプレゼント、罰、好きなあるいは嫌いな家族の象徴とみなすなど、無意識のうちに色々な思い入れが反映されていきます(Lax, 2003)


次回のコラムで母親の立場、子の立場両方から、誕生後の母子の愛着についての文献をご紹介いたします。


文献


Genevie, L., & Margolies, E. (1987). The motherhood report: How woman feel about

being mothers. New York: Macmillan.


Kishida, S. (2001). Hahaoya gensou [The myth of motherhood] Japan: Shinshokan.


Lax, L. (2003). Motherhood is an ebb and a flow-it lasts a lifetime: The vicissitudes of

mother’s interaction with her “fantasy child”. In P. Turrini & D. Mandell (Eds.), Inner world of the mother (pp. 319- 323). Madison, CT: Psychosocial Press. 


Okonogi, K. (1991). Oedipus to Ajase [Oedipus and Ajase]. Tokyo, Japan: Seitosya.


Rubin, R. (1984). Maternal identity and the maternal experience. New York: Springer. 


Turrini, P. and Mandell, D. (2003). Recent research and future directions. In

Turrini, Patsy and Mandell, Dale (Eds.), Inner world of the mother (pp. 319- 323). Madison, CT: Psychosocial Press. 




Uchino, T. (2007). The midlife mother's separation-individuation from her daughter: A
comparative qualitative study of Mexican and Japanese mothers residing in the United States. Psy.D. dissertation, Alliant International University, San Diego, United States, California. Retrieved March 26, 2010, from Dissertations & Theses: Full Text. (Publication No. AAT 3273278).

(株)高橋翻訳 事務所 心理学翻訳 担当 Dr. 内野