新花巻駅の駅名板は、星座の間を汽車が旅するモチーフだ。地上の山々と思しき影にも星が散りばめられており、地上と夜空の境界が取り払われるようなイメージもある。
汽車の到着が間近に迫り、ホームに次々と乗客が出て来た。流浪の人々を乗せた銀河鉄道は、サウザンクロスではなく太平洋に向かって旅をする。
夜の闇を切り裂いて、眩いヘッドライトがホームに滑り込んで来た。
この時間のはまゆりは、唯一鱒沢駅に停車する下りのはまゆりだ(遠野以東で松倉駅にも唯一停車する)。新花巻から40分と少々の旅をし、遠野駅に到着した。
最終の汽車で旅をしていた時代が思い起こされるが、遠野で多くの人が降りる光景を見て、未だ人々が活動する時間帯だったことを思い出す。
遠野駅前は雪が踏み固められ、ガチガチの状態になっていた。夜の間に気温が下がったら、さらに凍り付きそうである。
県内でも遠野は一段と寒いことが多い。闇に浮かぶ駅の明かりを見遣り、真冬の遠野に、俺がいるべき場所に戻って来たのだということを実感する。
今日も例によって光興寺に宿を取っているのだが、元々到着が遅くなる予定だったので先に夕食を済ませる約束にしていた。駅を出た俺は、そのまま隣で酒飲みを誘う様に光る看板を掲げる店に吸い込まれた。