遠野放浪記 2015.09.19.-18 現代の光 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

もう今日の終わりの時間が迫る中で、続いて駒木しし踊りを見学。これは角助という人が掛川から持ち帰って伝えたもので、遠野郷の鹿踊りの中でも元祖とされている(駒木にある「元祖角助の墓」は遠野遺産に指定されている)。

 

 

 

 

遠野に伝わる数多の流派の鹿踊りの中でも、最も起源が古いとされる駒木しし踊りが、こうして250余年の時を経て夜の駅前で踊られているとは、さしもの角助も想像だにしなかったのではないか。現代に生きる我々が今日、この光景を見たということに意味がある気がする。

 

 

 

 

 

やがて夜の鹿踊りの時間が終わり、民話通りは嘘のように静かになった。鹿たちがいなくなった通りには、激しい踊りの最中に抜け落ちたカンナガラが落ちており、それを残った人々が拾い集めて道を綺麗にしている。

この、遠野まつりのパレードが終わった後の光景が好きだと呟いた人がいたが、よく理解出来る。

 

 

我々も街を離れ、宿に戻ることにした。

秋とはいえまだ暖かく、この興奮を少し覚ましたい気分なので、松崎まで歩いて帰ることにした。ふたつある早瀬橋のうち、下の方が松崎まで出るには近いのだが、こちらはバイパスからは遠く、この時間になると明かりも疎らだ。遠くに見えている灯りは、上早瀬橋からバイパスに出る道の信号や街頭だろうか。別の世界のように遠くにある。

 

 

バイパスを横切り、もう蛙の声も聞こえなくなった田圃の中を歩いていると、遠くの街の灯りが闇に隔てられて、決して届かない夢のように見えた。

 

 

最後の坂を上って振り返ると、街の灯りがさらに遠くになり、道に一本だけある街灯が現実世界の終端を示しているようだった。

 

 

部屋に帰り着いた我々は、軽くシャワーを浴びた後布団に入り、長かった今日にあった様々のことを思い出しながら喋っていた。

しかしそれもやがて眠気に飲まれ、意識は夜の闇に溶けて行った。