遠野放浪記 2015.08.15.-10 少しだけ報われた話 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

何も見えない下界を眺めていても状況は変わらないので、外に出て山頂の道を歩いて見た。西の空には綺麗な夕焼けと、その上空から迫る夜の澄んだ闇が広がっていた。

 

 

 

天気に怨みごとばかり言っていても仕方ないので、気持ちを切り替えて晩ごはん。今日は、まだ独り身だった頃に何処だかで買った、いちご煮うにほたての缶詰だ。

元々が高い食材をふんだんに使っている缶詰で、どちらも英世が2人前後旅立つ程度の御値段だが(幾つかのメーカから似た商品が出ている)、極めて芳醇な出汁の深みは完全に缶詰の域を超えている。釜石あたりまで行くと何処でも買えるので、少し奮発してでも是非味わってみて頂きたい。

 

 

食事を終えても状況はあまり変わらない。この間に何人かの見物人が麓から上って来たが、何も見えない下界に諦めて帰って行った。

我々はそう簡単に下山することも出来ず、不貞寝するくらいしか選択肢がない。

恐らく打ち上げ会場では、何の問題もなく綺麗な花火が見られているのだろう。それをこんな提案をして、結果的にせよ嫁に悪いことをした。

 

そんなことを考えていると、有り難いことにほんの僅かだけ霧が引き、下界の明かりと共に打ち上がる花火を数発だけ見ることが出来た。

 

 

 

 

霧の中に浮かび上がる打ち上げ花火というのも、これはこれで綺麗だ。

嫁も少しだけでも見られて良かったと言ってくれた。今回の旅も実りあるものになり、良かった、良かった……。

 

一応、その後花火大会が終わるまで下界を眺めていたが、そのうちに再び霧が濃くなり、今度こそ視界は真っ白になってしまった。何年か振りに遠野の夜景を見たかったが、こればかりは仕方が無い。

我々は山小屋に寝袋を拡げ、夜が明けるまでの短い眠りに就くのであった。