遠野放浪記 2015.08.15.-09 悲しい話 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

下界は薄紅色に染まり、人々は晩ごはんの支度を始める時間である。

今日は半日山小屋でじっとしているだけだったが、とても楽しい時間だった。こうして遠野の一日は暮れて行く。

 

 

 

 

そして、街に明かりが灯り始め、暗くなれば遂に花火が始まる時間なのだ。

しかしながら、後僅かでその瞬間が訪れようかというこのタイミングで、もくもくと沸き立った雲が遠野を囲む山々から流れ込み、盆地に溜まって行った。

 

 

 

 

バイパス周辺には既に夜の明かりが瞬いている。雲はその光をも隠さんというばかりの勢いで、遠野の街を闇に染めて行った。

 

 

 

 

 

 

夏の遠野には往々にしてある光景だが、幾ら何でも今日に限ってこれは酷過ぎる。神は俺を見放し給うたのだろうか。

ただし、まだ花火が打ち上がるまでには時間がある。いっとき霧が掛かっただけで、完全に夜になれば再び下界が見えるようになるだろう……。

しかし結論を言うと、そんな俺の一縷の望みも虚しく、この雲が晴れることは朝になるまでなかったのである。