花巻から汽車に乗った我々は、岩手の街に別れを告げて宮城県を目指して行った。
汽車の中では、彼女が実家の近くで買って来てくれたスイーツをいただいた。特に、盛岡キャベツという巨大なシュークリームの存在感が凄い。
我々は途中の新田という駅に寄り道し、駅の近くにある伊豆沼というところへ行った。此処はラムサール条約に指定されている水鳥の楽園で、厳冬期には白鳥や雁といった渡り鳥たちが大挙して飛来する。汽車の窓からも見える広大な水辺に憧れ、ずっと来て見たかった場所だった……。
僅かな時間だがたくさんの水鳥たちに出会うことが出来、気付けばすっかり日が暮れていた。
我々は仙台まで汽車を乗り継ぎ、仙台からは新幹線に乗ることにした。
訪遠時には寄り道している間に汽車が止まり、泣く泣く新幹線に乗らざるを得なかったが、今日は何の問題もなく新幹線に乗り込み、上野に向けて出発した。
長旅の疲れか新幹線の中では寝てしまい、景色など楽しむ余裕もなかったが、上野駅が近付くとしっかりと目を覚ました。
彼女は此処からさらに地下鉄に乗り換え、当時の住処である西新井に帰って行った。
俺も歩いて本郷の自宅へ帰る。
独りに戻り、駅ビルの煌びやかなネオンが何故だか虚しく見えた。
何となく真っ直ぐ帰るのが寂しく、上野公園に立ち寄ってみると、木々がライトアップされていた。暫くそれを眺めていた。木は目まぐるしく光の装いを変え、足早に去り行く人を健気に呼び止めているかのようであった。
そのまま不忍池に抜け、対岸のあの静かに光る街を目指す。
コンクリートジャングルにおける人工の光とはいえ、俺は夜景を見るのは好きだ。特に派手でキラキラしている光景よりも、あの明かりひとつひとつが人の営みの明かりなのだと感じられる、静かな夜景が特に良い。そして今から、あの明かりの中のひとつに戻って行くのだと思うと、何だか胸が少しだけ暖かくなる気がする。