すっかり外が暗くなったので、めがね橋を見に外に出て見る。真っ暗な闇に浮かぶめがね橋に、手前の橋脚跡が少し寂しく見える。
足元ももうあまり見えないが、川面のステージまで下り、さらに水面の岩の先まで行って見る。逆さまに映っためがね橋が、冬の夜の強い風に揺られて絶えずその姿を変化させている。
暫く眺めていると、遠野から来た汽車がめがね橋の上を通って行った。2両編成。
同時刻に花巻から来る汽車はなく、宮守駅ですれ違う相手もいない。
また静寂が訪れる。俺は川から上がり、土手道を歩いてめがね橋に近付いて見る。見上げる場所にそそり立つめがね橋は、冷たい輝きを放っている。
そろそろ遠野に戻る汽車が近付いて来る時間になったので、このまま道に上って駅に向かうことにした。もう少し道の駅でのんびりしても良かったのだが、宮守にいると身体中の力が吸い取られていつまでものんびりしてしまうので、名残惜しいが動かなければならない。
めがね橋の下をくぐり、宮守の街の外へ……。
街を見下ろすような姿のめがね橋だけが、宮守の街に別れを告げる俺を見送ってくれる。
めがね橋の半円の中に、道の駅の明かりが浮かび上がって見える。暖かい明かりである。またあの明かりは自分で何処かへ行くことも出来ない、寂しい光でもある。
めがね橋を何度も振り返りながら、俺の足は次第に橋から遠ざかる。
こちら側にも人家があり、集落はあるが、今はすっかり闇に包まれている。家族で過ごすための小さな明かりが其処此処に灯っているが、俺がその中に入ることは出来ない。
すっかりめがね橋の姿が見えなくなり、俺の目に映るのは闇だけになった。釜石街道から宮守駅へ、ともすれば見逃してしまいそうな細い階段が上っている。