分校の校舎から離れの講堂には、2階からは渡り廊下が繋がっているが、1階部分はめがね橋をイメージしたのであろうアーチに彩られた、半屋外の廊下で繋がれている。
アーチや離れの庇の下には雪が積もらず、此処を歩く人もいなくなったというのに未だに何かに守られているかのようだ。
俺はこの学校の卒業生ではないが、通っていた小学校が廃校になるという経験をしており、「自分のルーツである場所がもうない」という感覚がどのようなものかはよくわかっている。
アーチから覗く校庭、故郷の森、遠くの山々。この場所から眺める風景が、この先何人の目に触れるだろう。
勿論建物の中には入れないが、下駄箱や傘立てといった当時の設備は残っており、今でも5年前のまま時間が止まっているかのようだ。
校舎の時計は止まり、朽ち掛けた椅子に雪が積もっている。
冬の満月の夜には、大勢の雪童子を連れた雪女が出るという。今は人ではない存在が、取り残された道具を使っているのだろうか。
山の上に雲が出て来て、一層寒さが身に染みる時間帯になった。
雪の上に残る足跡は、俺のものを除き、全て動物や鳥のものである。
いや、もしかしたらその中にひっそりと混じる足跡が……あったりなかったりするかもしれない。