重く垂れ込めたカーテンの裾から、僅かに光が漏れていた。その光は山の彼方には届かず、知らない世界に薄く長い影を伸ばしていた。
冬の田園にやはり雪はなかった。その景色は何故だか脆く、小さく見える。指先で突くと壊れてしまいそうな、不安定な情景である。
汽車から見下ろす集落が白くない。真っ白な光に満ちた小さな集落は、この年はまだない。
大地を見守る山々もない。あの果てはもう世界の行き止まりで、その先に何もないかのようだ。
関東と東北の境界の上で生きる人々の心の中には、純粋な雪は降り積もっているだろうか。
そして、俺は何度目かの白河を越える。関東に別れを告げ、東北の大地に出会う。そして俺は後何度、この川を渡るだろう。
この場所が空の分かれ目でもあるように、少しだけ表情が和らいだ。まだ先は長く、時間はたっぷりある。