何時もならばこれから鈍行に乗って本郷まで帰るところだが、今回は流石にそれでは今日中に帰れないので、一ノ関から新幹線に乗る。本当は時間に追われるような旅はしたくないのだが、今回ばかりは仕方ない。
ある意味で「時間は金で買える」を体現している乗りものである新幹線が到着した。
一ノ関から上野まで、新幹線の中では遅いやまびこでも2時間半で到着してしまう。あっという間に、視界がギラギラと眩しくなって来た。
コンクリートの奥底にある上野駅のホームに到着。東北の玄関口と親しまれて来たこの駅も、高速化の波に埋没し旅情というものは失われつつあるように感じる。
到着したのは21時過ぎ。馬券が当たらなかったとはいえ、やはりうまい棒だけでは足りない。何か軽くで良いから食べて行こう。
上野から湯島に入ったあたりにある、もつ煮いち川という店に入ってみた。割合と新しい店のようだ(注:未確認だが現在は存在していないらしい)。
この店はもつ煮一本で勝負している店で、そのもつ煮も具材は蒟蒻のみと非常にシンプルだ。価格も抑え気味で今の俺に大変優しい。
事実とても美味く、さらにシェフオリジナルだという柚子油が良いアクセントになる。この柚子油の商品化も考えているとのことで、将来性に期待出来る店……だったのだが。
どうにか晩ごはんを食べることも出来、俺は不忍池を越えて来る晩秋の夜風に吹かれながら自宅へ向かった。
池を挟んでビル街の夜景が見渡せる。すぐ近くで見るとギラギラとして無機質に感じるが、遠く別世界のように見える夜景からは、哀愁とひと握りの希望を感じ、何となく好きなのである。
東大を経由して菊坂下の自宅へ。後はゆっくり眠り、明日に備えるだけだ。
今回は彼女を東京に置いて来てしまったので、土産に遠野で山ぶどうワインを買っていたのだ。これは出始めた当初はピーキーな味で「数ある地元の産物のひとつ」といった評価に過ぎなかったが、年を経るにつれて味が洗練されて行き、今では遠野のみならず県内の老舗ワイナリーのワインと肩を並べる名産品にまで成長した。
盛岡出身の彼女も喜んでくれるだろう。
こうして俺の年内最後の遠野旅行が終わった。12月にもいろいろと考えてはいたのだが、10月に旅をした長野の鬼無里という街を彼女が大変気に入ってくれたので、年末はそちらに行くことにしたのだ。次の遠野への旅は、年が明けて1月の消防出初式の見学まで待つことになる。
しかしながら、こうして旅が好きで良かったと思える日が来て、本当に感慨深い。それが俺以外の誰かと共有出来るとなれば、猶更だ。