遠野放浪記 2014.11.23.-01 少々冷たいスープと共に迎える朝 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

未だ人が起き出す前の上郷の片隅で、俺は独り目を覚ました。11月も終わりに近付き、岩手の朝は結構寒い。

今日の朝ごはんは、缶詰のクラムチャウダー。本来なら温かいスープと行きたいところだが、仕方ない。ごはんと一緒にいただいたが、シチューライスが許せる人にとってはかなり美味だろう。俺も許せる人だ。

 

 

寝ている間に雨が降り、朝の空は湿っぽい表情であった。地面にも水溜りが出来ている。

 

 

荷物を片付け、早めに上郷駅を出発した。

 

 

街は未だ眠りの中である。写真では伝わり辛いかもしれないが、空模様も相俟ってかなり暗い。

 

 

大通りに出る信号機の明かりが、今は有難く思える程だ。

 

 

今日は此処から一日掛けてずっと山の方へ旅をする。上郷もそれなりに大きな街とはいえ、数分も自転車で走ればすぐに山や田園が近付いて来る。

 

 

何もない、ただ広い道に出た。雨は既に上がり、空は明るくなり始めている。霧の向こうに山々の輪郭だけが重なって見え、まるで子供の頃に聞かせて貰った昔話の世界のようである。

 

 

こんな光景が、遠野に住んでいる人は毎日見られる。それだけで羨ましい限りだ。

 

 

夜に降った雨が、今になって気温が上がり始め、水蒸気になって山々を覆っている。道一本交わる毎に、霧のヴェールを一枚ずつ脱がせて行くように、段々と視界がクリアになって来る。

 

 

厚い雲を突き破り、ひと筋の光が青い空を指し示した。

 

 

暫くパティに跨って走っていたが、当たり前だが山に向かっているので道は段々険しい上り坂になって行く。これくらいなら自転車を漕ぐのに何の問題も無いが、此処で体力を消耗するわけにも行かないのでパティは押して歩くことにする。

 

 

少しずつ、目に見える建物も時代掛かったものが増えて行く。街には鉄道が通り、人々の生活は物質的には豊かになったのかもしれないが、山で暮らす人々の暮らしはきっと今もそう変わっていないのだろう。

 

 

周囲の風景は、完全に山の道のそれに変わった。何時の間にか、遠く離れていた山々が目の前に近付いて来た。中腹からは霧が吹きだすように、もの言わず立ちはだかるその姿は畏怖の対象でもある。

 

 

次第に人の世界とその外側の境界が曖昧になって行くだろう。未だ駅を出てから一時間も経っておらず、先は果てしなく長い。