遠野放浪記 2014.11.22.-14 鹿の夜 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

汽車は遠野の街を出て、岩手の闇の中を海へ向かって走る。

ヘッドライトに照らされて、街外れの木造橋が浮かび上がる。此処を過ぎると、あたりは再び真っ暗闇だ。

 

 

数分で隣の青笹駅に到着。この駅でもまだ降りない。

 

 

そしてさらにひとつ先の岩手上郷駅に到着。この駅で俺はパティを抱え、誰もいないホームに降り立った。

 

 

上郷ははまゆりも一往復ずつ停まる駅で、周囲にはそこそこ大きな集落があるのだが、この時間ともなると真っ暗闇である。釜石街道は駅から少し離れたところを走っているため、車の音も殆どしない。

 

 

駅のゲートが煌々と光り、ホームまでの歩道を明るく照らしているが、今日はもうこの光の中を歩く人はいないだろう。

 

 

明日の目的地は街から遥かに遠い山の中にあるのだが、その最寄り駅が上郷なのだ。ということで、俺は待合室に入り、明日の始発が来るまでの間を過ごすことにした。

 

 

釜石線標準の待合室だが中はやや広く、少しだけのんびりと過ごすことが出来そうだ。

 

 

鹿踊りの名前が付けられた駅を出発し、明日は鹿の如く軽やかに山の奥まで駆け巡る……そんなことを想像しながら、俺は短い眠りに就くのであった。