花巻での楽しい時間は終わり、いよいよ釜石線に乗って東へと向かう旅の始まりだ。
真っ暗になった岩手の内陸を、星から星へ光を求めるように汽車は旅をして行く。
この闇の中に、本当はどれだけの数の星があるのだろうか。その星の全ては輝いているだろうか。
花巻から峠を越え、汽車は宮守駅の明かりに辿り着いた。闇に浮かぶホームには誰の姿も無いが、それでもこの明かりが道標となり、人は星を見ながら旅をすることが出来る。
宮守の街の内と外を隔てるめがね橋を渡る。
街にも山の深い場所にも、小さな星が瞬いている。
汽車はまた峠を越え、いよいよ遠野盆地に入った。釜石線、そして釜石街道という銀河に沿い、人々の暮らしが続いている。
此処から車窓には広大な田園地帯が続く。もう山の姿は闇の向こうに隠れ、見えない。この闇の中には何が蠢いているのだろうか。幾らでも想像出来るのが遠野の夜という時間だ。
そして汽車はおよそ一時間で遠野駅に到着した。
この時間にホームで汽車の到着を待つ人はいない。
何時もならばこの駅で下車するところだが、今日は通過した。
明日の目的地へ向け、久々に夜の“遠野から先の世界”へ足を進める。新しい一日への扉はこの暗闇の中にある。