汽車に乗って次に訪れたのが、仙人峠を下った場所にある洞泉駅。
この駅の看板には鹿のイラストがあしらわれているが、これは近くにある五葉山の鹿をモチーフに鹿踊りが発祥したという伝説をモデルにしている。
岩手県全土に伝わる、全く違うルーツを持ちながら奇妙に似通っている鹿踊りは、元を辿ると全てがこの地に辿り着くというのだろうか。
洞泉駅も軽便鉄道の全盛期は、立派な駅舎があり複線を備えた駅だったが、今はその面影を僅かに残すのみで、美しい緑の中に埋もれようとしている。
この洞泉駅では四季折々の美しい風景に出会うことが出来、釜石線の中では一番好きな駅だ。
かつては島式だったホームの様子がよくわかる。貨物の取り扱い終了後に線路が取り外され、やがてはその痕跡もわからない程になってしまうのかもしれないが……。
駅舎や集荷場があった場所は今は広場になり、夏になると盆踊りが行われるという。当時の洞泉駅を知る人は、どれくらいこの地に残っているのだろうか。
釜石街道よりも高い場所にあり、人も汽車も来ない時間帯にはとても静かな洞泉駅。暖かい日には鳥の鳴き声を聞きながら、次の汽車を待つのも良い。現代の楽園とさえ言えるであろうこの駅に、読者諸氏も是非足を運んでみていただきたい。
五葉山がどの山なのかは実は知らないのだが、これだろうか……。
さて、此処からは暫く汽車が来ないので、釜石の中心まで歩いて行くことにする。約3時間後に再び釜石行きの汽車がやって来るが、それだけ時間があれば小佐野あたりまでは進めるだろう。
緑と一体化し、ゆっくりとした時間が流れる洞泉駅に別れを告げ、釜石街道へ下る。
釜石街道から洞泉駅へ上る坂はかなりきつく、御年寄りなどは駅へ通うのも大変だろう。
これは軽便鉄道開通時に既に稼働していた釜石鉱山鉄道とのバッティングを避けるため、高台に駅を造らざるを得なかった当時の事情によるものだろうとされているが定かではない。
駅から下ったところには郵便局があり、集合住宅も何棟か立っている。
この先は釜石街道沿いに街が形成されており、コンビニや商店もあって釜石の中心に向かうに連れ段々と賑やかになって来る。仙人峠の東と西でこうも沿道の様子が変わるとは……。
もう海に至るまでに峠や坂道は無く、天気が良い日にはちょっとした散歩にもなる。この道を歩くのも5年振りなので(当時は自転車だったが)非常にワクワクしている。