鹿と人間たちが一体になって踊る最後の演目は、煌びやかさそのもの。真っ白な鹿の前掛けに漆黒の鹿頭、そして人間の踊り手たちの色とりどりの衣装や扇子が夏の日差しに溶け混ざり、苦難の先に花開いた遠野の歴史を透明なキャンバスに描き出しているようだ。
踊りの最後に鹿と踊り手たちが整列し、本殿に深く頭を垂れ、鹿踊りは終わった……。
と思ったら、また笛と太鼓がリズムを刻み始め、鹿踊りは続行。そういえば、何時ぞやの遠野まつりでも市長の「さあ!踊ってください!」という謎の掛け声とともに、延々と鹿踊りが続いたこともあった。彼らはとうにへとへとに疲れている筈だが、踊り手の女の子は笑顔だった。
また暫く、華々しくも激しい踊りが続き、再び全員で本殿に頭を垂れた。
鹿と踊り手たちは続々と境内を後にし、張り詰めた空気が一瞬緩む。
すると、三体いた鹿のうち一体だけが本殿前に留まり、最後にたった独りの鹿踊りを披露してくれた。
人間の踊り手はおらず、仲間の鹿もいない。ただ祭囃子だけが響く境内で、たった独りのカーテンコール。この祭が終われば、遠野にはやがて秋が来る。短い北東北の夏に別れを告げる、先人たちへの鎮魂の舞。あまりにも静かな鹿踊りの最終章は、俺の胸を痛い程に打った。
これで今度こそ本当に、今日の鹿踊りは全て終了。祭は次の演目へと移って行く。