薬師岳は遠野三山や岩手山と比べて知名度は低いが、標高は岩手山・早池峰山に続き県内で3番目である。遠野側は鬱蒼とした森が、山頂近くまでずっと続いているという。
以前は又一の滝だけ見て帰ってしまったが、今回は何処まで進めるだろうか。
遠野から早池峰に挑むには、薬師に登頂するか、横通りという薬師の中腹を迂回するルートを取って小田越を目指すしかない。この前薬師自体が、遠野伝説の最奥へと至る偉大な道なのだ。
この道は「早池峰古の登山道」として、遠野遺産に登録されている。
勾配はかなり急で、もう沢があんなに下に行ってしまった。木が幾重にも生い茂り、沢の様子をはっきりと見ることも出来ない。
やがて沢渡りの場所に到達し、行く手には丸太の簡素な橋が現れる。
掴まるものも無く、丸太をただ横倒しにしただけの橋は沢水のせいで非常によく滑る。こんなところで沢に落ちては堪らないと、俺は取り分け慎重に先へ進む。
沢はとても美しい。この水が何処から生まれ出でて来るのか、これからこの目で拝むことが出来るかもしれない。
道と沢は寄り添ったり、離れたりし、時たま沢渡りをしながら次第に山奥へと進んで行く。
まだ1kmくらいしか歩いていない筈なのだが、少しずつ足が重くなって来た。

