遠野放浪記 2014.07.27.-06 愛 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

太陽の姿が見えなくなると、薄紅はみるみる色褪せ、空は夜の色に変わって行く。


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地上に僅かに残った水溜まりや川面に、最後の夏の日差しが封じ込められているかのようだ。

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そろそろ、光と影の区別も付かなくなって来る。車窓の風景も見納めだ。

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街の人々も家路を急ぐ時間帯。田園も市街地も、寂しさと共に暮れて行く。

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列車の旅は最後の乗り換えを済ませ、夜の北関東を走る。上野駅に降り立つ頃には、夜も更けていた。

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東京はこんな時間になっても騒がしい。

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街からも明かりが消えることは無い。煌びやかだが、何処か虚しく映る気がする……。

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晩ごはんは手軽に済ませようと、不忍池の入り口にある王将に入ることにした。

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メニューを見ると、何と学生の頃に毎日のように食べていたホルモンの味噌炒め定食が復活していた。

以前、ぐる●びに掲載されているのに店では終売していることを指摘し、店員が「すぐに修正しますね」と約束してくれたことは拙著でも述べたが、まさかぐ●なびのメニューではなく店のメニューの方を修正するとは思わなかった。

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当時からもう何年も経っているので記憶は薄れていたが、このこってりした味付けの柔らかいホルモンをおかずにごはんを何杯もおかわりしていたことは鮮明に覚えている。旅の最後にこんな懐かしさを感じられるとは……。

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晩ごはんを終えると、時計はもう22時を回っていた。俺は不忍池から東大を通り、本郷は菊坂の自宅に帰った。


これで今回の旅は終わりだが、夏はまだこれからである。夏になると毎年休みを一週間程度取り、いろいろな場所へ旅して来たが、この年はふと、久し振りに長い時間をかけて遠野を巡る旅をしてみるのも良いと思っていた。

学生の頃、時間だけはたっぷりあったので、一週間ずっと日が暮れるまで遠野を走り回っていた。街から街へ根無し草のように渡り歩く旅も楽しいが、今年は旅を始めるきっかけになった遠野に腰を据えて過ごそう。

この思い付きがやがて俺の旅を、ひいては生きる道さえも大きく変えていくことになるとは、このときはまだ知る由も無かったが、得てしてそれは後から気付くものであって、旅をしているその瞬間に選んだ道が正しいのか否かは考えても仕方のないことなのかもしれない。