迷岡は非常に広い。地元の道を熟知しているタクシー運転手でさえ道に迷う程、果てしなく広い。
今俺の目に映っている景色でさえ、迷岡のほんのいち側面でしかないのだ。
この道を歩いていても元の場所へ戻れるのかどうかはわからないが、何かの導きであるかのように自然と足が前へ進む。
ひと口に迷岡と言ってもその中は幾つかの集落に分かれているようなものだが、この場所には大きな家が多く、迷岡の中心集落であるようだ(バス停まである)。
しかし恐らく、この奥に入って行っても行き止まりになるだけだろう。
また家の姿が無くなり、目に入るのは田園と山と空のみ。しかし道は一段と高いところへ上り、先程まで歩いていた場所は遥か眼下だ。
次第に景色に見覚えがある気がして来た。迷岡の入り口に近付いているのだろうか。
思い返せば、特段何かがあったわけでも、日常を覆すイベントが発生したわけでもなかった。しかし何は無くとも、非常に楽しい時間だった。何が楽しかったのかは上手く言葉に表せないが、読者諸氏にもそういった経験をしたことがあるだろう。
何かに迷い続けていたような気もするが、そんな時間も終わりが近付いている。