街からはもう随分と離れ、目に見える風景は完全に山里のそれである。
夜には明かりも殆ど無いのだろう。家々の姿は少なくなり、茹だるような濃い緑の向こうに、青い山々の稜線が見えている。
少しずつ迷岡へ近付いているのは確かだが、まだ暫くは丘越えの道が続きそうだ。
小刻みなアップダウンはボディブローのように俺の体力を奪って来る。手持ちの水はもう温くなってしまった。新たに冷たい水を飲もうにも、このような場所に自販機など望むべくもない……。
今は耐えて歩き続けるしかない。俺の全身から汗が流れ落ち、アスファルトの上に俺の足跡が残った。
迷岡へ向かう道から見下ろす先にはまた別の道があり、何処へ続くとも知れない道の途中で暮らしている人たちもいる。今、こうして邂逅する生活があると思うと、この旅路にも意味があるように思えて来る。
しかし、日陰は皆無だ……。せめて風のひとつでも吹いてくれれば、非常に有り難いのだが。
丘越えの道からはまた小さな集落が見渡せた。しかし今歩いている道沿いには、いよいよ家も何もなくなって来た。
下に降りる道があったが、未舗装だ。この先に何があるのかも全くわからない。
やがてそんな別世界のような集落すら見えなくなり、いよいよ山深い場所に差し掛かった。
行く先にこれ以上、人の生活の匂いを感じさせるものが現れるような気がしない。
後どれ位で、何処に辿り着けるのかもわからない、まさに俺は今迷いの丘を歩いている。