峠を越えてようやく辿り着いた遠野の夕暮れは、少しだけ明るかった。
遂に一日、青い空を拝むことは叶わなかったが、明日もこの雨は降り続けるのだろうか。
綾織の街を過ぎ、跨線橋をくぐり、道の駅の巨大風車に見送られると、目的地はもう目の前だ。
あそこは初めて遠野を訪れたときに通った道だ。まだ何も遠野のことを知らなかった時代が思い出される。
汽車は速度を落とし、乗客たちはドアが開くのを心待ちにするように支度をする。
ドアが開き、久し振りの遠野の空気を吸い込む。しっとりとした夏の湿気が肺を潤した。
ホームには至るところに水溜まりが出来ている。この調子だと雨は明日まで残りそうだ。
今回の滞在中に、夏の鮮やかな遠野の風景を見られる機会はあるだろうか。
遠野の目抜き通りも、長い雨に中てられて何処となく元気が無いように見える。しかしこれから歩き、いろいろな人と会えば、いつもの遠野の姿が見られるだろう。