日没が迫る岩手も雨、只管雨。
花巻で雨が降っていて、遠野の天気が良かったためしはない。ということは、遠野も今日は一日雨なのだろう。
せめて一瞬だけでも太陽が見たかったが、もう諦める以外にあるまい。
東和から市境の峠に差し掛かり、発電所、岩根橋の集落に見送られて次の街へ。
霞の向こうに、夏を迎えて生命力に溢れる田園、学校、そして遠い山々。せめてこの姿を拝めただけでも幸いだった。
汽車は宮守の街に差し掛かり、遠くにめがね橋の姿が見えて来た。
街も駅も花も、一日降り続いた雨に濡れそぼっている。あれは夕餉の支度の湯気なのだろうか、それとも地面から立ち上る水煙なのだろうか……。
宮守駅を出発した汽車はめがね橋を渡り、次の峠を越えて遠野盆地を目指す。
小さな宮守の街が最後まで見送ってくれたが、その姿もやがて森の木々に隠れ、見えなくなってしまった。


