鬱蒼とした森は何時しか終わり、その先は遮るものの無い剥き出しの山肌を進む道に変わる。
これより神の領域だということで、旅人は皆この巨岩を目印に刀などを身から離して行った。そのことからか、この岩を刃納めの岩と呼ぶ。
この先はいよいよ石上の恐ろしさが牙を剥いて襲い掛かって来る難所が続く。
武骨な山肌はまだ寒々とした空気に支配されているが、木々の若い枝からは新芽が出始めている。
自然の営みに頬を緩める暇も無く、目の前に最初の難関である鎖場が立ちはだかった。
垂直に近い崖を、細い鎖のみを頼りによじ登る。幸い、木の根や地面の凹凸が良い足場になるので、然して苦労せずに上ることが出来た。
とんでもないところによく建てたものだ。遥か昔の石上は修験道の山であったというから、この場所で山と寝食を共にして修業を積んでいた男たちがいたのかもしれない。
内部には石神権現の札、そして遠野三山の女神の絵が掲げられている。
このような恐ろしい場所にあって、中之堂の中は不思議と何かに護られているような安心感がある。修験者たちにとっても、一日の終わりに此処で床に就く瞬間が何よりの安寧だったに違いない。
御堂を後にし、引き続き石上の頂上を目指して進む。この先は、息つく暇もない難所の連続である。
程無くして、鎖梯子が掛けられた巨岩に出くわした。ほぼ垂直な岩肌を、この頼り無い梯子を伝って上って行くのだが、今度は梯子以外の足場が皆無で、一度足を滑らせたら一巻の終わりである。しかもこの梯子、岩に密着するように掛けられているため、足が掛け辛いことこの上ない。
恐ろしい鎖梯子をどうにか乗り越えても、その先に今度は岩の鎖場が立ちはだかる。最早己の腕力と集中力だけが頼りで、少しでも気を抜いたらその先に待っているのは真っ暗闇である。
さらにその先には鉄の梯子が。これまでの鎖場よりもより傾斜は垂直に近く、しかも梯子は余りにも不安定で、一段上る毎に激しく揺れる。
底無しの奈落が口を開け、全力で登山者の精神を削り取りに来る。この恐怖に打ち勝てる者にしか、石上を制覇する資格は与えられないのだ……。