遠野放浪記 2014.05.03.-10 夜の山に暮らすこと | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

日がとっぷりと暮れるのを待ち、俺は街を出発した。

駅前通りを離れると、其処は僅かな生活の明かりを除き、真っ暗な闇に支配される夜の世界だ。


1


初音橋を渡り、釜石線を頼りに青笹へ。笛吹峠方面へ進路を取り、さらに光ひとつない闇の中を手探りで進み、やがて六角牛神社の鳥居に辿り着いた。

2


そう、明日の目的地は遠野三山のひとつ、六角牛山そのものだ。

3


その前夜、遠野側の登山口に立つ六角牛神社で一夜を明かさせてもらうのだ。

4


この神社には何度か足を運んだことがあるが、夜になると全く別の場所のように感じられる。

人の足音も、生きものの声もしない、静寂に包まれた夜。きっと六角牛の神が見守ってくれているのだろう。

5

6


俺はキリスト教徒だが、夜の神社の参道を歩くと非常に厳粛な気持ちになる。心の中で一宿の礼を述べながら、本殿への階段を踏み締めるように上る。

7


やはり、夜の六角牛神社の姿は、昼間に見たそれとは全く違う。もの言わずにこちらを見下ろしている。

8

9


今晩はこの本殿の軒下に宿を借り、日が昇ると同時に起き出して山へ向かうつもりだ。

10


中には入れないが、祭壇には暖かな空気が流れているのを感じた。厳かだが、不思議と張り詰めた感じはしなく、まるで訪れた旅人を包み込んでくれるかのようだ。

11


まだ21時過ぎだが、寝袋を敷いて中に潜り込み、明日に備えて眠る。

思い起こせば、俺はこれまで白望山などのそう難易度が高くない山には幾つか登って来たが、明日はいろいろな意味でこれまでとは違う一日になるだろう。初めての本格的な山への挑戦、そして長年の念願だった遠野三山への挑戦。この大きな壁を乗り越えたとき、俺の旅路に大きな楔が撃ち込まれる。