遠野放浪記 2014.04.28.-18 夜鷹の星 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

ようやく暖かい季節が近付いて来たとはいえ、東北の夜は早い。

食事を終える頃にはすっかり日が暮れ、遠野の街は闇に包まれていた。


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明日はちょっと東和に寄り道しようと思い、俺は名残惜しいが今晩のうちに遠野を離れることに決めた。


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花巻へ向かう最後の汽車を待つ。他に乗客は数人しかいないようだ。

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ホームを夜風が吹き抜け、寂しい雰囲気だ。明日はもう遠野には戻って来られないと思うと……。

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やがて、釜石から来る最後の汽車が到着。

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いつも俺の目を楽しませてくれる遠野盆地も、猿ヶ石川も、闇に沈んでしまった。遠くに見える街の明かりだけが、寂しさに耐え輝いている。

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暗がりに浮かぶめがね橋を渡り、宮守を経てまた峠へ。銀河の中を今、旅をしているようだ。

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汽車は花巻の外れ、東和の玄関口にある土沢駅に到着。

上りのホームの裏手には満開を迎えた桜が夜風に揺れ、見事な春の景色を見せてくれる。

花びらは既に落ち始め、ホームのあちこちに散っている。遠野よりも季節の進みは早いらしい。

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ホームには上りの汽車を待つひとりの女性がいたが、彼女はワンマン運転の汽車への乗り方を知らず、何時までも開かないドアに困惑していた。危うくそのまま汽車が行ってしまうところだったが、たまたままだホームでうろうろしていた俺が運転手を呼び止め、間一髪で彼女は花巻へ向かうことが出来た。

俺も初めて東北に独り旅した頃はあんな感じだったかな……と懐かしみながら、駅舎へ。

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がらんとした無人の寂しい駅舎で少し休んだ後、俺はパティに乗って道の駅まで行くことにした。

駅舎で一夜を明かすことも出来たが、やはり少しでも明日の目的地へ近付いておきたいと思い、多少寒い思いをすることは覚悟の上で夜の東和へと漕ぎ出したのだ。


以前、釜石線の駅を先代と共に廻った際には、道の駅より先の東和の深部には縁が無かった。旅の途中の寄り道だけでも、今迄知らなかった街を新しく知ることが出来るのは幸せなことだと考えながら、この旅最後の朝日を待っていた。