街に戻った俺は、日が暮れるまでの間におやつでも食べようと思っていたのだが、生憎なことにのんのんもCocoKanaもお休み。何処か手軽に入れる店は無いか……と街を彷徨っていたところ、やおちゅうという店が扉を開いていた。
初めて入る店だが、どのようなものが食べられるのだろう……。
背後には流鏑馬の当たり矢も掲げられていたので、もしかしたら店主は町会の有力者なのかもしれない。
その他にも、昔の道具や可愛らしいカッパの人形なんかが所狭しと並んでいる。
店内は落ち着いた雰囲気。おやつには少々遅く、夕食には早い時間だからか、客は他にいなかった。
当初俺は甘いものをいただこうと思っていたのだが、どうやらこの店はカレーが美味いらしいので、豆とひき肉のカレーを発注することにした。
トマトベースで甘めのソースで、数種類の豆がほっくりと煮込まれていて、大変に優しい口当たり。深みがありながら後味しつこくなく、幾らでも食べられそうだ。遠野の他の店でもカレーを食べて来たが、そんなカレー好きの俺が判断するに今まで遠野で食べたカレーの中でも一番美味い。
日記を書いたりして暫くのんびり過ごした後、店主に礼を言って店を出た。
思いがけずしっかり食べてしまい、夕食にはもう少し時間を置きたいところだったが、明日の予定を考えながら街を彷徨っていたら、すぐに空は暗くなり、おなかが減って来た。
何せほぼ二日間、山にいたから食事は質素だった。遠野で過ごす最後の晩はちょっと贅沢しようと、街外れにある山小屋を訪ねた。
発注したのは、ハンバーグに唐揚げとエビフライがセットになった定食。山小屋の中でも一番ボリュームがあるメニューだ。
選べるハンバーグのソースは、ホワイトソースにして貰った。
地元民に人気の山小屋の中でも、特にこのハンバーグは自慢のメニューだ。ジューシーで食べ応えがあり、おなかもいっぱいになる。
カレーにハンバーグと、好きなものを好きなだけ食べた晩だった。遠野の果てのさらにその先へは行けなかったが、孤独な旅の中でいただく暖かいごはんが心に沁みた。