集落に向かう道と並行するように、琴畑川に流れ込む小さな沢が流れていた。その両脇に、天然のミズバショウが自生していた。
ミズバショウというと、遠野では貞任高原の群生地が有名だが、こんなところにも足を運んでみると、人知れない美しい姿に出会えた。有名な鑑賞地では全くないため、他に人が訪れる気配は無く、足元に広がる幽玄なる光景を独り占めである。
ほぼ満開を迎えたミズバショウが夕闇に映え、初めで出会った日と同じ、魂を吸い取られそうな程の妖艶な美しさに満ちていた。
ミズバショウは沢沿いに行儀よく一列に並び、その行列は道から外れて森の奥まで続いている。
人があまり立ち入らないような綺麗な沢だからこそ、ミズバショウも好んで生息しているのだろう。
釣り人も集落の住人も、これ程奥にまでは足を運ばない。この地が俗世から隔絶された、マヨヒガに抱かれた楽園であり続けることを願う。