遠野放浪記 2014.04.27.-03 山の生活 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

暫くは一本道の琴畑林道を只管歩き、周囲に見える風景には野生の色が濃くなって来る。


1


路面は朝露か雪解け水だろうか、湿り気が増して来たように思う。琴畑川の対岸、人が立ち入らない山の斜面にはまだ雪が残っている。

2


やがて、明らかに雪解けが形作った水の流れに出くわした。

山には里より遅れて春が来る。暖かくなるこれからの季節、こんな名も無い川が人知れず幾つも生まれ、そして水田に水が入る時期になると姿を消してしまう。こんな景色には今しか出会えない。

3


山に降った雪が溶け、やがて琴畑川に流れ込んで里へ街へ……一滴の水の壮大な旅路が、この場所から始まっているのだ。

4

5


街では出会えない風景を心に刻みながら、どんどん山奥へ向かって歩いて行く。琴畑川に近付いたり、また離れて行ったり……なかなか手が届きそうで届かない。

6


斜面を覆う雪は先へ進むに連れて嵩を増す。

7


まだ琴畑に訪れる春は遠いのだろうか。心なしか空気が冷え始めるのを感じながら、遠野の外れに近付いて行く。

8

9

10

11


時々、林業で立ち入る人のために切り開かれたであろう小さな広場に出くわす。今でも誰かが訪れているのかどうかはわからないが、人の気配が残る場所が砂漠の中のオアシスのように点在している。

12

13


琴畑川がようやく、手を伸ばせば触れられるくらいの距離にまで近付いて来てくれた。水は凍るように冷たく、突き刺さる程に澄み切っている。

14


まだ道程の半分にも達していないが、もうすぐ琴畑川との別れが待っている。