遠野放浪記 2014.04.26.-12 孤独な夜旅 | 真・遠野物語2

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この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

すっかり夜も更けた頃、俺は明日の目的地に近付くため、パティに跨り街を出発した。


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早瀬川を渡ると、夜でも眠らない遠野バイパスの明かりが闇に浮かび上がって見える。

バイパスを横切った先には、遠野の深淵がぽっかりと口を開けて待っている。

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僅かばかりの街灯と家々の明かりを頼りに、八幡様から土淵へ。

旧道を走る車も、勿論歩く人ももういない。次に迎えてくれる集落の明かりを心待ちにしながら、只管孤独に歩みを進める夜の旅が続く。

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街から小一時間程走り、俺は土淵の外れである一ノ渡の集落まで辿り着いた。

恩徳方面と琴畑方面への分かれ道に位置する、人家僅か数軒の小さな集落は、しいんと静まり返っている。琴畑川の流れさえも、夜の静寂に溶けて消えてしまったかのようだ。

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此処まで来ればお解りだろうが、明日の俺の目的地は琴畑の最奥、白望山だ。前回はマヨヒガを発見することが出来なかったが、今回は尾根伝いに小国方面まで足を延ばし、何としてもマヨヒガを発見するために久し振りに足を運ぶことにしたのだ。

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一ノ渡から琴畑までの山道は、さらに闇が濃い。数百メートルにわたって街灯すら存在していない場所もあり、漆黒の森の向こうから聞こえる生きものの声や足音……に恐れを抱きながらも、自らの足の裏に伝わる感覚のみを信じて上って行く。

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果てしなく続くかと思われた一時間強の道程の果てに、ようやく淡い明かりが見えて来た。

草木も眠る、夜の琴畑集落だ。

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琴畑にも人家は数軒しかなく、険しい山の中腹に開かれた僅かな平地を頼りに農耕が行われている。集落を抜けるとその先は、立丸峠または白望山に繋がる林道しかない。正真正銘、遠野最後の集落のひとつである。

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集落には人家の他、小さな水道施設があるのみで、外界の人間が訪れることは殆ど無い。俺はこの土地が好きで何度か足を運んでいるが、集落に暮らす人々を除いて誰かと出会ったことは、一度も無い。

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幸い明日は快晴の予報なので(遠野の天気は当てにはならないが)、琴畑橋の袂でひと晩を過ごそう。明日は住人が目を覚ます前に出発し、午前中のうちに白望山に辿り着きたい。