道路と新幹線によって隔てられてしまった土地にも、春はやって来ていた。
小さな山里の数々が其々に訪れた春と向き合い、季節を重ねて行くのだろう。
列車はそんな街からも離れ、生命の吐息も密やかな山の中へと入って行く。
里では散ってしまった桜は、山の中ではまだその姿を現世に留めている。ともすれば誰もが見逃してしまいそうな景色にこそ、世界の美しさが表されている。
一瞬、山と森が途切れると、遥か彼方に未だ雪を戴いた青い山々の姿が見晴らせた。
このあたりではまだ、ようやく田圃に水を張る準備を始めたばかりといったところ。同じ土地でも、山と里とによって季節の進み方は大きく違う。
やがて列車は山を下り、再び地上の人里へ。北関東と南東北を隔てる白河を越える。
太陽の季節。地上は遍く明るい光で満たされている。