山の稜線から顔を出した太陽は遠野盆地を光と影に染め分け、その中で猿ヶ石川は光の筋となって野山を駆け巡る。
峠道には人家も無いが、その中の僅かな平地にも人間は田圃を切り開き、逞しく生きている。文化圏のすぐ外側で、人はどのような風を感じているのだろうか。
峠を下ると、其処はめがね橋。宮守の街から、雪はほぼ全て姿を消していた。
宮守駅では汽車同士の待ち合わせをすることも無く、すぐに出発。
駅を出ると、汽車はまた険しい峠を越えて花巻へ向かう。その前の僅かな平地、宮守の街の外れに、眩いばかりの太陽の光が降り注いでいた。
雲ひとつないセルリアンブルーの空に、春を待つ山々。宮守の内側と外側を見守る小さな集落に、もう人の声が聞こえなくなった学校……。全てをこの場所に残し、汽車は走り続ける。
峠の中腹に位置する岩根橋の集落を越え、峠道の途中で宮守から東和に入る。これで遠野ともいよいよお別れだ。
こんなに険しい山の中にも、集落が点在し人々が生活している。境界線上の暮らしがどのようなものなのか、俺が知ることはまだない。