遠野放浪記 2014.01.11.-12 哀しみの夜 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

静かな明かりが灯る宮守駅には、俺の他数人の地元民が降り立った。

皆足早にそれぞれの家路に就き、凍て付く夜の風が吹くホームには俺だけが残った。


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かつての賑わいを失いつつある小さな駅にも、雪掻きの手は行き届いている。それが旅人である俺にとっても、何より嬉しい。

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小さな街の駅前通りにも、最初の明かりが灯った。これからそれぞれの家で、暖かい時間が流れるのだろう。

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ひと通り大好きな宮守駅のホームで懐かしい空気に触れたら、街に下りることにする。

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人がいなくなってしまった宮守駅の通路に、俺の足音がやけに大きく響いていた。

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実は宮守駅はこの年の4月から、完全に無人になることが決まってしまっていた。

さらに、当時はまだ先の話ではあったが、この愛すべき駅舎の取り壊しも、既に決定に向けて動き始めていた。

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宮守駅の素晴らしい、未来に残すべき駅舎は、人がいなくなったことであっさりと終焉を迎えてしまうことになったのだ。


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この当時はまだ憶測というか、希望的観測込みの噂に過ぎない話だったが、既に宮守駅に縁がある人々の間では、取り壊しは半ば決定事項として認識されていたように思う。そして、現在の宮守駅がどうなってしまったかは、拙著をお読みの諸氏が知る通りである。

拙著でもいずれ紹介する機会が来るだろうが……。


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釜石線の中でも最も歴史ある駅舎を、もう人が使わないからと躊躇いも無く破壊し――敢えて破壊と言いたい――結局JRにとっては金儲けが全てで、街と共存するとか、地元民の声を聞くとかいうつもりなど毛頭ないのだろう。駅の新しい標識に一瞬気を許してしまったが、その裏でこのようなことを画策していたとは、心底がっかりであり、怒りを通り越して呆れてしまう。

街と共存する気が無いとしても、それならばせめて黙って見ていることくらい出来ないのだろうか。まあ出来ないから、俺のような旅人も地元民も平気で裏切るようなことばかりするのだろう。俺にもう少し資産があれば、こんな会社など買収して、宮守駅の破壊を計画するようなヤツなんか解雇して宮守駅の気持ちを少しでもわからせてやるのに……。

結局は、金に飽かせて日本の交通網を支配するJRに対し、何の力も持たない乗客は泣き寝入りするしかなく、JRしか走っていない地域では、不条理な会社であることをわかっていながらもJRの列車に乗るしかないのである。そんな現実を思い知らされた、哀しみに満ちた気持ちになってしまった新年最初の旅であった。

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とまあ、駅前で独りJRをディスっていても何も始まらないので、まずは最初の目的を果たすため、めがね橋を上から見下ろせる例の穴場に行ってみることにする。

時刻表によると、そろそろ上りの汽車が橋を渡る筈なのだが……。