遠野放浪記 2013.12.28.-13 夜道 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

俺が冬になるといつも宿泊しているくら乃屋さんは、松崎町は光興寺にある。

パティを組み立て、冬の遠野路に走り出す。駅前から光興寺を目指すには、まず大工町から下早瀬橋を渡ってバイパスを目指すのが良い。


1


駅周辺こそまだ明るいが、早瀬川を越えてバイパスに出るまでの路地は、途端に明かりが少なくなってしまう。足元も悪い中、ゆっくりとバイパスの明かりを目指す。

2


この時間はバイパスでさえ、行き交う車の明かり以外は心許ない。やがてバイパスも越えて殆ど車が通らない道に入ると、目の前に広がっているのは暗闇ばかりだ。

3


猿ヶ石川の薬研淵を越えて松崎町に入る。街灯は無いに等しいが、その代わり夜空に瞬く星明りが、俺とパティの行く手を照らしてくれた。

4


松崎町のメインストリートを暫く走ると、くら乃屋さんに上る最後の坂が立ちはだかった。


「B&B くら乃屋 500m先」

5


くら乃屋さんは2010年のオープンだから、俺が初めて下の道を通ったときには、まだこの看板は無かったんだよなぁ……。一緒に旅をする相棒も代替わりした。時間の流れを感じながら、俺はパティから下り、急な坂道を上り始めた。


冷静に考えると、いや考えなくても、500mの急坂というのは結構キツイ。しかも今は真冬なので、足元は非常によく滑る。普通の思考をする人ならば、くら乃屋さんに電話して迎えを頼むだろう。

6


しかし急な坂道を上り終えた人間に、遠野はちょっとだけ素敵な御褒美を用意してくれている。

ささやかではあるが、松崎町の田園地帯を挟んで見える、遠野の街の夜景。冬の冷たい風を肌で感じながら、静かな夜に灯る人々の明かりだ。

あの中に、俺の思い出がどれだけ詰まっているだろう。

7


取り敢えず、無事にくら乃屋さんに到着した。

8

9


ちょっとドキドキしながらドアを開けると、御主人が出迎えてくれた。一年振りの懐かしさが込み上げて来る。話したいことは山のようにあるが……全部話していると朝になってしまうので、取り留めのない話をしつつチェックインの手続きを済ませる。

なお、今日は女将さんは仲の良い友人と飲みに出かけているとのことで、いなかった。手続きが済んだ後は、少しだけ部屋で休憩し、晩ごはんを食べるために再び街まで出掛ける予定だ。

10


ちなみに、くら乃屋さんには前の冬に薪ストーブが新しく設置されたのだが、年末くらいしか屋根の下で寝ない俺は、この日初めて薪ストーブと対面した。

11


おぉ……噂には聞いていたが、これは素晴らしいものだ。

炎の様子は優し気なのに、近くにいると明らかに暖かい。薪ストーブの設置にはそれなりに広い敷地が必要で、遠野でも街ではなかなか設置できる家が無いとのことだが、この立地ならば設置に何の問題も無いわけだ。遠野に通い続けているおかげで、またひとつ東京ではお目に掛かれないものに出会えた。

12


っと、薪ストーブに見惚れているうちに時間は過ぎて行く。

明日の朝、改めて薪ストーブを観察することにして、今は街に向かおう。