岩手に入ってからも、天候は変わらない。日も傾き始め、濃い灰色に覆われた空の下を、列車は北を目指して走り続ける。
動くものは何も見えない、真っ白な大地。
逆さ吊りにされて干された稲藁が、雪の中に置きっ放しになっている……。
辛うじて大きな道では、車が走っているのが見える。心なしか、見えない不安から逃れようと家路を急いでいるようにも見える。
時間が経つと共に天候はどんどん悪化して行き、岩手も強い吹雪に襲われた。
誰もおらず、足跡さえ付いていない小さな駅を、列車は置き去りにして行く。
岩手県南には、平泉や北上といった大きい街が幾つかあるが、賑わっているのは駅の周りくらいのもので、街と街の間はやはり静まり返った灰色の街が見えるだけだ。
数ヶ月前から全く変わってしまった岩手の大地。夏に見た、生命の輝きに満ちた風景とこれが同じ土地のものだとは、とても信じられない。
もうすぐ、また遠野に帰ることが出来る。
俺の全てを受け入れてくれるあの場所に。