その場所には、寺沢高原の頂上付近を案内する看板も一緒に立っていた。
ということは、本当に此処が高原地帯の入り口だと思って良さそうだ。
早速先へ進もう……と思ったのだが、その瞬間俄かに強い雨が降り出し、あっという間に俺を濡れ鼠にした。
小雨程度ならば気にしないのだが、これは明らかに傘が必要なレベル。折り畳みを持って来て良かった。
最後の森林地帯を抜けると、其処には広い平原が広がっていた。視界を遮るものは無く、どの程度の距離があるのか見当も付かないくらい遠くの山々まで、頭を左から右に動かすだけで余すところなく目に入って来る。
空に重く垂れ込める雲まで、この緞帳に山々が映えている姿が美しくさえ見える。
見晴らしが良いとかいうレベルの話ではない。見えるものはただ深い山、山ばかり。
此処がどういう場所であるか、ひと目見るだけで後は言葉など要らない。
寺沢高原はとにかく広い。まだ此処は高原のほんの入り口に過ぎない。
いつの時代の人が用意したのかもわからない、無骨な門に出迎えられる。
歓迎の暖かい言葉も、抱擁もない。ただ悪戯っぽく、夏にしては冷たい風が吹き抜けるのみだ。
どうせ気儘な旅だ、雨が小降りになるまで足を止めて休もう。