列車は福島から郡山へと下り、白河へと差し掛かろうとしていた。
久し振りの長旅の疲れから暫く夢現だった俺がふと顔を上げて外を見ると、淡い夕日が山の向こうへ沈んで行くところだった。
薄い雲のヴェールに覆われ、終幕を迎えた舞台女優のような春の夕日は、あの日に見た儚さを秘めていた。
あの春の日とは勿論、場所も情景も変われば、それを眺める俺も変わっている。しかし、目の前に広がるこの光景を理屈ではなく美しいと感じる心は、どれだけの時間が経っても変わらない。
東京にも遠野にも、そして東北と関東の境界線にも、等しく夜は訪れる。
夜が来て一日に終わりがあるから、人は次の一日へ、まだ出会ったことが無い自分を探しに歩き出せるのだ。
やがて列車は白河を越え、北関東へ。あの太陽と共に、俺の旅も終わりを迎えようとしている。
儚くも強烈な光を放つ太陽が山の向こうに消えた後は、その淡い残照が水に零した絵具のように空に広がり、やがてそれも深い闇に染まって行く。
家も木も川も人も、俺がいる場所からは見えなくなってしまうだろう。
俺は昼から夜に変わって行くこの最後の時間がとても好きだ。
日本人はまず、この美しい土地に生まれた自分自身をもっと誇りに思うべきである。




